第83話「世界の終焉」
黒の街の何処からでも見えるほどの異様。
巨躯。
赤黒く光る8枚の巨大な花びらを、翼のように月光の下に広げ、無数の巨大なツタを地上に向かって伸ばしたその姿は、まるで花の蜜の代わりに血を残さず吸い上げる、蝶の悪魔だった。
ヘルタースケルターが仮面をとった。
その下からは、幼さを残す美貌が、更には、その左眼から咲き乱れる、ドライフラワー患者特有の花が露わになる。
そして、ヘルタースケルターの声が、地響きのように聞こえてきた。
ヘルタースケルター『もういい。この街のみんな、病気になれば、みんなと友達になれると思った。でも、もういいの。私のこと嫌いなんだものね』
ヘルタースケルターが、エルザに向き直る。
ヘルタースケルター『じゃあ、私もあなたは嫌い』
エルザ「っ!!!」
エルザが、とっさにバイクを乗り捨てて跳ぶ。
と、ヘルタースケルターのツタが、外壁に勢いよく振り下ろされた。
爆音とともに、瓦礫となって崩れ去る外壁。
エルザが、温室の屋根に降り立つ。
エルザ「くそ…。急に大風呂敷広げるじゃないか」
ヘルタースケルター『ねぇ、考えたことある?ある日突然、世界で、たった1人になるの』
ヘルタースケルターが、花びらを羽ばたかせながら、エルザの目の前に降りてきた。
エルザ「…」
ヘルタースケルター『ねぇ、もし、ドライフラワー病になって、それで、正気のままだったらどんな気分だと思う?歳をとらなかったら?死にたくても死ねなかったら?そんなことしたくないのに、血を吸いたい衝動を抑えられなかったら?』
エルザ「…」
ヘルタースケルター『周りの人は、みんな、私のこと気持ち悪いって言って石を投げるのよ。来るなって言って罵声を浴びせてくるの。パパもママも、みんな、私のこと…、今のあなたみたいな目で見てくるわ』
エルザ「…そうかい」
ヘルタースケルター『ずっと、ずっと、独りぼっち。だから、思ったの。この世界の人間がみんなドライフラワー病になれば、1人くらい、私と同じ子が生まれるかもって。お話が出来るかもって。…家族になれるかもって、思ったの』
エルザ「それで?世の中の人間皆をドライフラワー病罹患者に仕立て上げるために、あれこれしてた訳かい」
ヘルタースケルター『この世からライムライトをぜぇんぶ無くすのよ。みんな私と同じになれるわ』
エルザが、ジャンヌ・ダルクをヘルタースケルターの胸に突き立てた。
エルザ「子供の我儘で世界を滅ぼされちゃ堪らないね」
ヘルタースケルター『……。私を無視する世界なんて要らないじゃない』
ヘルタースケルターが、エルザの首を掴んで持ち上げる。
エルザ「ぐっ…!!う…ぅ…!!」
ヘルタースケルター『何にせよ一度始めた遊びはきちんと終わらせなくちゃ。3回捕まっちゃったから…』
ヘルタースケルターが、エルザを目一杯放り投げる。
エルザは、建物を突き破りながら吹っ飛んで行った。
ヘルタースケルター『今度は私が鬼ね』
ふわりと巨体を空に浮かせるヘルタースケルター。
世界の終焉の始まりは、常に唐突な物である。




