第81話「取るに足らない」
アドリエンヌとエルザに挟まれたフィガロは、背後を気にしながらもエルザに暴食の枝を向けていた。
アドリエンヌ「ホンットに。色んな人に探されてるわよ、ボス。大人気で何よりだわ」
エルザ「全くだね。忙しいからここは任せたよ」
アドリエンヌ「ボーナス。あと休暇」
エルザ「終わったらね」
アドリエンヌ「とっとと終わらせて、ちゃっちゃと支払ってちょうだい。今すぐどっかの賭場で有り金全部突っ込みたい気分なの」
エルザ「せっかちだね。善処するよ」
バイクを再び走らせるエルザ。
フィガロ「行かせないと言って…」
アドリエンヌ「ちょっと」
スカルシュレッダーが火を吹いた。
エルザが、車体を大きく右に倒し、フィガロの横を走り抜ける。
アドリエンヌ「邪魔しないでくれない?」
フィガロ「…こちらの台詞です」
屋根の上で対峙するアドリエンヌとフィガロ。
アドリエンヌ「なに?アナタ、ふらっふらじゃない。今すぐ飛び降りれば見逃してあげるケド?」
フィガロ「御託は結構。時間がありません」
暴食の枝を構え直すフィガロ。
アドリエンヌ「命懸けってヤツ?メンドクサ。そういう暑苦しいの苦手なのよね」
スカルシュレッダーをコッキングし、フィガロに向けるアドリエンヌ。
フィガロ「命を懸けるに値する信念。貴女には分からないでしょう」
アドリエンヌに斬り掛かるフィガロ。
しかし、度重なるダメージで、その動きは精細を欠いていた。
アドリエンヌ「わっかんないわよ。人間なんて死んだらタダの肉袋じゃないの」
アドリエンヌは、容赦なくフィガロに銃撃を見舞う。
辛うじて避けたフィガロだが、銃弾は、後方の車両を抉り、一部を吹っ飛ばした。
フィガロ「鉛玉を浴びて倒れようと、例えこの身が朽ちようと、私の魂が、志が生き続ける!我が肉体は死を迎えようとも、それは断じて終わりなどではありません!!」
アドリエンヌ「くっだらな」
アドリエンヌが後方に跳ぶや、足元の連結器を狙い撃ち、車両を切り離す。
フィガロ「くっ!!」
フィガロが、アドリエンヌのいる車両へと飛び移った。
そして、フィガロが着地する瞬間を狙って、アドリエンヌがどこからともなく取り出した小袋の中身を、フィガロの眼前にぶちまける。
火薬である。
フィガロ「っな!!」
アドリエンヌ「アタシのバカンスに比べたら取るに足らないってのよ」
アドリエンヌが、くわえていた煙草を指で弾いた。
空気中にばら撒かれた火薬に引火し、フィガロを巻き込んで大爆発が起こる。
黒煙が晴れると、そこには汽車の屋根の上に横たわるフィガロの姿があった。
フィガロ「っ…私は…、負けられない…っ!」
アドリエンヌ「はーいはい。アタシの負けでいいから。寝てなさい」
フィガロが意識を手放す。
アドリエンヌは、新しい煙草を取り出そうと、くしゃくしゃの煙草のパッケージを取り出したが、空なのに気がついて、大きく舌打ちをした。
パッケージを握りつぶして肩越しに捨てる。
と、先頭車両の方からエルザの叫び声が聞こえてきた。
エルザ「掴まりなぁああ!!!!」
汽車が脱線し、クラッシュした。
風景が躍る。




