第69話「人よ。語るなかれ。」
北エリア。円形劇場跡。
八咫烏神社から上がる火の手が黒の街の空に反射し、空がうっすらと朱色に染まっていた。
エルザが、劇場の扉を開け、階段状になった客席を降りていく。
エルザ「スマイル!!!どこだい!!来てやったんだからもてなしな!!!!」
エルザの声が、闇の中に反響しながら吸い込まれていく。
と、どこからともなく、正面に据えられた舞台の上にスポットライトが当たる。
そこには、人1人分程度の大きさで、中身は空の檻があった。
そして、檻を照らしていたスポットライトが上に上がっていき、スマイルが、舞台の更に上に設けられたステージに表れる。
スマイル「人の行う正義ほど悲しきものはない。我々は皆、無知であり、また無能であるが故に、正義を行うべきは、神のみである。人よ、正義を語るなかれ。汝の語る正義は悪であるが故に。人よ、悪を成すなかれ。汝の成す悪は、人にとっての罪であるが故に。人よ、罪を成すなかれ。汝にとっての罪は、神のない罰であるが故に」
エルザ「感動的だね!!とっとと降りてきな!!!!」
スマイル「おぉ!なんという事だ!!役者に舞台を降りろとは!!これ即ち、死ねと仰るのと同義ではありませぬか!!私は、役者として舞台に命を捧げた身!!貴女の為には死ねませぬ!!!!」
エルザ「ふざけてんじゃないよ!!!!!ゾエを返しな!!!!!」
スマイル「ハハッ!!!せっかく、君のためだけに劇場を貸し切って、君のためだけの演目を上演してるんだよ?最後まで静かに観劇するのがマナーってものじゃないかな?!」
エルザ「それで!!?次はお捻りでも投げてやれば満足かい!!!御託は良いんだよ!!!降りてきな!!!!」
スマイル「お捻りか…。それもいいけど、ボクはアンコールが欲しい。鳴り止まない拍手と千回のアンコール。ボクはそれが何より欲しい!!!」
エルザ「もういい!!こっちから行くからそこで待ってな!!!!」
スマイル「おいおい。客が上演中に舞台に上がるのはご法度だよ?君は、本当に芸術ってモノが分かってない。ってな訳で、そんな君にも楽しめるとっておきの演目を始めようか」
エルザが、観客席を降りていく。
スマイル「やはり、最高の舞台といえば悲劇だからねぇ。ハハッ」
スマイルが指を鳴らす。
すると、スポットライトが舞台上の檻にも当たった。
檻の中の奈落になった床が、下からせり出してくる。
スマイル「さぁさぁそれでは、我が劇団の花形達のお出ましと行こうか!!ブザーを鳴らせ!!!開演だ!!!!!」
盛大なブザーの音と共に、舞台袖から大量のドライフラワー患者たちが溢れ出てくる。
と、同時にタイミングを合わせて檻の中の奈落が上がりきった。
そこに居たのはゾエだ。
エルザ「くっ!!!」
スマイル「ハハッ!!!ハハハハハハハハ!!!踊れ踊れ!!華やかに行こう!!!!」
ゾエが、叫ぶ。
ゾエ「エルザ様!!!来てはいけません!!!お戻り下さい!!!!」
役者は揃った。開演だ。




