第67話「白馬の騎士」
エルザは、庭の隅の方に建てられたガレージのシャッターを開け、その前に立っていた。
エルザ「やれやれ。乗るのはいつぶりだろうね」
エルザが、ガレージの真ん中に鎮座していた塊からシートを外す。
姿を表したのは、大型のバイクの姿をした魔具だった。
エルザ「頼むよ。シュヴァルブラン」
純白のボディを撫でるエルザ。
エルザは、バイクに跨ると、エンジンに火を入れる。
エルザ「んん、たまんないね」
左腕を包帯で吊ったまま、右腕でスロットルを絞る。
エルザ「さ、行こうか」
猛烈な唸り声を上げ、ガレージから飛び出すバイク。
エルザはそのボディを傾けると、正門へと走らせた。
と、後ろからエルザを呼び止める声が聞こえる。
セバスチャン「エルザ様!!いけません!!!」
エルザ「夕飯までには帰るよ!!セバス!!!」
セバスチャン「エルザ様!!!!」
髪をたなびかせながら後ろを振り返り、叫び返すエルザ。
そして、エルザを乗せたバイクは、一切速度を緩めることなく、正門を突っ切って黒の街の石畳へと走り出た。
エルザ「懐かしいねぇ。昔も、よくこうして屋敷を抜け出したっけ。…ドロテアの運転でね」
轟音をあげ、街中を走り抜けるエルザ。
その音に気づいたのか、家々の窓から、街の人々が木戸を開き、顔を覗かせる。
住民「エルザ様!」
住民「エルザ様!頑張って!!」
住民「レディ・ブランのお通りだ!!」
住民「レディ・ブランのお通りだ!!」
次第に広がっていく、エルザへの呼び声。
エルザ「危ないから家の中に籠ってな!!」
住民「エルザ様ー!!」
住民「レディ・ブランだ!!レディ・ブランが通るぞ!!」
エルザ「…まったく」
呆れ顔のエルザだったが、満更でもない様子だった。と、そこへ、エルザの通信用魔具に呼び出しが掛かる。
エルザ「はいよ。なんだい」
マルコシアス『エルザてめえ!!何かあったら俺に言うって約束しただろうが!!!一人で飛び出して行きやがって!!どういう了見だ!!!』
エルザ「あぁ。そういやそんな約束もしてたっけねぇ」
マルコシアス『エルザぁ!!!!』
エルザ「確かにシュヴァリエの名に誓った事はあったよ?でも、今の私は、シュヴァリエ家のエルザじゃない。白薔薇の団、団長、エルザだ。公務中だから邪魔しないで欲しいね」
マルコシアス『屁理屈こねてんじゃねえ!!今すぐ戻れ!!!』
エルザ「やなこった。ま、夕飯までには片付けて戻るから。じゃあね」
マルコシアス『待て、エル…』
通信を切り、バイクを横倒しにして止めるエルザ。
偶然、シュヴァリエ邸に戻るところだったアドリエンヌが通りかかったのだった。
アドリエンヌ「あら、ボス。悪いわね。あのピエロ逃げ足が速くて。見失ったわ」
エルザ「ああ、良いんだよ。それより、これ預かってな」
通信用魔具をアドリエンヌに放るエルザ。
アドリエンヌ「え?ちょっと…」
エルザ「じゃ、そういうことだから」
エンジンを吹かし、猛スピードで走り去るエルザ。
その後ろ姿を、アドリエンヌが見送る。
アドリエンヌ「はぁ?」
また、通信用魔具が鳴った。
アドリエンヌが出る。
アドリエンヌ「はい?」
マルコシアス『エルザ!!…じゃねえな。誰だ?白薔薇の団か?いや、誰でもいい!!エルザは何処に行った!!』
アドリエンヌ「知らないわよ。凄い勢いでどっか行っちゃったわ」
マルコシアス『すぐに追いかけろ!!』
アドリエンヌ「無茶言わないでよ。徒歩で追いつけるわけ無いじゃない」
マルコシアス『良いから追え!!魔具の通信を切るなよ!!!おおまかにどこに向かったかだけでも中継しろ!!』
アドリエンヌ「はぁ…。別料金よ」
マルコシアス『とっとと追え!!!』
アドリエンヌが、新しい煙草に火をつける。




