第66話「虜」
シュヴァリエ邸。
気を失ったベアトリーチェを支えるエルザ。
そこに表れたのはスマイルだった。
スマイル「あらららら。負けちゃったか。ざーんねん」
エルザ「スマイル。っ!!」
スマイルの方へ向き直るエルザだったが、振り向いた途端に、スマイルが小脇に抱えている人物に気づく。
スマイル「いやぁ。やっぱりメイドっていいよね。特にこの娘は…、友達を庇うために身を挺してボクの攻撃を受け止めてね。いやぁ…健気で可愛いじゃないか」
エルザ「…貴様!!今すぐその汚い手を離しな!!」
スマイルが抱えていたのは、気を失ったゾエだった。
スマイル「ハハッ。アハハハハハッ!嫌だね。ボクだって君のようになりたいんだ。君の持ってる物が欲しいんだ。たくさん持ってるんだからいいだろ?」
エルザ「スマイルッ!!!!!」
スマイル「おっと。少しでも動いてみなよ。ボクはとっても怖がりだから、手が滑ってこの娘のか細ーい首がぽっきりいっちゃうかもね」
エルザ「…スマイル」
スマイル「ハハッ。いい気味だ。その顔だよ。その顔。実にいい気分だよエルザ君」
唇を噛むエルザ。
その口元には血の筋が滲んでいた。
スマイル「エルザ君。やっとボクの気持ちが分かったかな?大事なものを害される気分が。君は、正義の味方なんだから、その辺、ちゃんと分かってないとね」
エルザ「……。」
スマイル「ま、ボクだって鬼じゃない。君にチャンスをあげよう。黒の街の北エリアの外れの方に、廃棄された円形劇場の跡がある。彼女を取り返したかったら、一人でそこまで来るんだね。あ、なるべく急いだ方がいいよ?ボクは気紛れだからね。ハハッ」
途端に、スマイルの姿が掻き消える。
エルザが呟いた。
エルザ「待ってな。ゾエ」
そこへ、ローランが戻ってくる。
ローラン「エルザ様!ヴィヴィアンは無事です。重症ですが、命に別状はありません」
エルザ「あぁ。そいつは結構。じゃ、ローラン、この女を手当して牢にでも入れときな」
ベアトリーチェをローランに預けるエルザ。
ローラン「御意に。…エルザ様?」
エルザ「あぁ。少し外すよ。後は任せた」
ローランに背を向けて歩みを進めるエルザ。
ローラン「エルザ様!!」
エルザは振り向かない。
エルザ「…なんだい」
ローランが、しばらくの沈黙の後、口を開く。
ローラン「……エルザ様。ご武運を」
エルザが口もとを少し緩めた。
ローランの方を振り返る。
エルザ「ありがと」
少しずつ遠くなっていくエルザの背中を、ローランは黙って見送っていた。




