第6話「マルコシアス・ファミリー」
遡ること数時間前、マルコシアス。
マルコシアス「ったく…相変わらず愉快な道化野郎だ」
会合の会場を後にするマルコシアス。
そこへ、黒いパンツスーツに身を包んだ中性的な女性が歩み寄ってくる。
彼女はマルコシアス・ファミリーの一員、ダンテである。
ダンテ「親父」
マルコシアス「おう。ダンテ。待たせたな」
ダンテ「全然待ってねえです。どうぞ」
ダンテが傘を差し出す。
マルコシアス「おう」
ポケットに片手を入れ、もう片方の手でフェドーラ帽を直しながらダンテの差し出す傘に入るマルコシアス。
マルコシアスが石畳に踏み出すと、周囲の路地から、スーツに身を固めた屈強な男女がぞろぞろと姿を表し、革靴の音を辺りに響かせながらマルコシアスの周囲を固め、歩き出す。
その中から、一際屈強な男が、マルコシアスの側へ進み出る。
彼は、ダンテと同じく、マルコシアス・ファミリーの一員、マウリツィオである。
マウリツィオ「…パパ」
マウリツィオは、少し身をかがめると、シガレットケースを開いてマルコシアスに差し出す。
マルコシアス「おう。今日は…そうだな…。左から2番目の気分だな」
マウリツィオは、シガレットケースの中の左から2番目の葉巻を取り出すと、マルコシアスの口もとに差し出す。
マルコシアスが葉巻を咥えたのを見ると、ダンテがジッポライターで火を点ける。
マルコシアス「………。染みるぜ」
紫煙を吐き出すと、マルコシアスは独りごちた。
そこへ、ダンテが話しかける。
ダンテ「どうでしたかい?親父」
マルコシアス「そうさな。ま、ギルドの連中には睨みをきかせつつ、当分は様子見だな」
マウリツィオ「あいつら…いけ好かねぇ」
マルコシアス「やめとけ。往来で滅多なこと言うもんじゃねえ」
マウリツィオ「Mi dispiace.(ごめんなさい)」
マルコシアス「…ま、奴らに煮え湯を飲まされてるのは確かだがな」
ダンテ「一応、親父の言うとおりに警備は強化してやすが、シマの連中の間では、不安が広がってるようですぜ」
マルコシアス「そうだな…。今以上に、薬の被害者へのケアを手厚くした方が良いだろうな。頼めるか?」
ダンテ「うす」
マウリツィオ「…あの薬。どうやって仕入れたんですかね」
マルコシアス「ありゃ、自分たちで作ったんだろうさ。スマイルの奴はそっち方面にいやに明るいからな」
ダンテ「あの赤っ鼻。本当にろくな奴じゃありやせんぜ。どうしやす?俺と何人かで、カチコミでもかけやしょうか?」
マルコシアス「やめとけ。ライムライト輸送隊の襲撃やら何やらで、ただでさえどこもピリついてるんだ。あまり派手なことはやりたくない」
ダンテ「親父。甘いですぜ。ああいう連中は潰せる時に潰しとかねえと、すぐ幅を利かせ出すんでさ。一言、言って頂きゃ、今すぐにでも奴の首を…」
マウリツィオ「おい。パパのやり方に口を出すつもりか?」
ダンテ「あぁ?引っ込んでろよでくの坊」
マウリツィオ「お前……!」
マルコシアス「やめろ」
マルコシアスが歩みを止めて一言発した。
だが、それだけで辺りの物音がぴたりと止む。
マルコシアス「こんな時に兄弟喧嘩するんじゃねえ。仲直りしろ」
マウリツィオ「…悪かった。ダンテ」
ダンテ「…ああ。俺もカッとなっちまった」
再び歩き出す一行。
マルコシアス「俺たちは家族だ。勝手も、身内での切った張ったも許さねえ。いいな」
ダンテ、マウリツィオ「Va bene.(わかった)」
街の明かりに、紫煙が溶けていった。