第50話「虜囚」
シュヴァリエ邸、エルザの自室。
そこには、上半身の衣服を脱ぎ去り、ゾエとマルグリットの手当を受けるエルザがいた。
エルザ「どんな具合だい」
マルグリット「左腕の腱と、肘の関節、肩もかなり痛めておいでです」
ゾエ「しばらくは、日常生活にも支障が出るかと。処置をした後は、動かないように固定致します」
エルザ「そうかい。世話をかけるね」
マルグリット「お早めにお医者様にかかるようにして下さいませ」
エルザ「…ああ」
エルザ (診療所も病院も、どこも手一杯だ。左腕1本でガタガタ言ってられないね)
エルザ「ま、利き腕じゃなくて良かったよ。片付けなきゃならない書類が文字通り山とあるんだ」
マルグリット「…お身体の事を考えれば、しばらくは職務そのものをお休み頂きたいです。…安静になさって欲しいです」
ゾエ「マルグリット」
マルグリット「申し訳ございません…。出過ぎた事を」
エルザ「いや…、ありがとね。心配かけちまってすまない」
湿布を貼り、包帯を巻いていくメイドたち。
エルザ「私も…、休めるもんなら休みたいさ。だが、今回ばかりは多少の無茶をしてでも私が動かないといけないんだよ」
マルグリット「分かっています。…分かっているつもりです。でも、私たちは戦えませんから…」
顔を伏せるマルグリット。
ゾエ「……戦えないなりに、私たちに出来ることでエルザ様をお支えしたいと思っています。ね?マルグリット」
マルグリット「…!そ、そうです。それが言いたくて」
エルザ「…ふふ。そうかい。私は本当に人に恵まれたね」
不意に、部屋の外から忙しげな足音が聞こえてくる。
エルザ「2人とも、下がってな」
マルグリット「え、で、でも!」
ゾエ「下がるわよ」
エルザが立ち上がり、メイド2人の前に立つ。
すると、ドアが勢いよく開かれた。
そこに立っていたのは、肩で息をするリトル・トラジティだった。
エルザ「おやおや、ようやくお目覚めだね。ご機嫌麗しいようで何よりだよ」
リトル・トラジティ「エルザっ!!お前、あたしを助けたのか?!」
エルザ「助けた…?さてねぇ。全く覚えがないが」
そこへ、もう1つ足音が迫ってくる。
ローラン「おい貴様!!っ…!!エルザ様?!!失礼致しました!!」
上半身に一糸まとわぬ姿のエルザを見て、ローランは、ドアの横に隠れる。
リトル・トラジティ「あたしに情けをかけたのか?!!」
エルザ「見くびるんじゃないよ。あんたみたいな犯罪者、誰が憐れむってんだい」
リトル・トラジティ「じゃあどうして!!」
エルザ「まさか私が、情に駆られてあんたを保護したとでも思ってんのかい?笑わせるね。あんたをこうして生かしてるのは、スマイルの奴の企みを洗いざらい吐かせるためだよ。あんたは保護されてるんじゃなくて、囚われてるんだ」
リトル・トラジティ「…じゃあ牢屋にでも入れて、あんな子犬じゃなくてまともな見張りをつければいいだろ…」
エルザ「はっ…。逃げるつもりかい?よしんば逃げ出せたとして、どこに逃げるつもりだい。スマイルのとこにでも戻ってみるかい?涙ぐましい事だ。ワンころはどっちだろうね」
リトル・トラジティ「……もういい」
リトル・トラジティが、部屋を後にしようとするが、エルザが声をかける。
エルザ「待ちな。いいかい、ここはシュヴァリエ邸だ。今回は目を瞑ってやるが、次、舐めた態度をとったらタダじゃおかないよ。覚えておきな」
リトル・トラジティ「…」
リトル・トラジティが部屋を後にする。
その背中には、戦いの時に見せた苛烈さは見えなかった。




