第49話「傷痕」
朝方、シュヴァリエ邸に戻ったエルザ。
エルザ「おや、確かに庭にプールを作るか悩んではいたが…。気が利くねぇ…」
ヴィヴィアン「申し訳ございません。エルザ様」
エルザ「いいさ。ヘルタースケルターの連中が来たんだろ?被害は」
ヴィヴィアン「人的被害はございません。物的被害は…」
ヴィヴィアンが、クレーターだらけになった庭を横目で見やる。
エルザ「あー…。まぁ、安いもんさ。良くやったね」
ヴィヴィアン「…過分なお言葉にございます」
そこへ、セバスチャンが戻って来る。
紳士然とした装いが、返り血で赤黒く染まり、スーツは仕立て直さなければならないような有様だった。
セバスチャン「エルザ様。遅くなりまして、面目次第もございません」
エルザ「おやセバス。また派手に暴れたね。白い暴風の復活かい?」
セバスチャン「ほっほ。まさか、そのようなことは。…損害を報告致します」
エルザ「頼むよ」
セバスチャン「白薔薇の団からは、死者23名、重軽傷者合わせて96名が報告されております。民間人の方は、死者5名、重軽傷者合わせて322名です」
エルザ「そうかい。…ご苦労だったね」
セバスチャン「…はっ」
ローラン「エルザ様」
ローランが、リトル・トラジティを抱えて戻ってくる。
エルザ「おや。診療所は満床だったかい?」
ローラン「はい。ですので、私の判断でシュヴァリエ邸に戻って参りました」
エルザ「そうか。いい判断だったね」
ローラン「お褒めに預かり光栄です。…エルザ様、如何致しましょう」
エルザ「ヴィヴィアン、邸内のベッドに空きは?」
ヴィヴィアン「申し訳ございません。負傷者の受け入れもしておりますので満床でございます」
エルザ「私の執務室は」
ヴィヴィアン「空いておりますが」
エルザ「執務室に寝かせな」
ローラン「エルザ様!こいつは敵です!」
セバスチャン「ローラン」
ローラン「…申し訳ございません」
エルザ「いいさ、セバス。ローランは私のためを思って言ってくれたんだ。多目に見てやりな」
セバスチャン「御意に」
エルザ「ローラン。今のその娘は負傷者だよ。それとも、私のベッドで寝られるのが羨ましいかい?」
ローラン「決してそのようなことは…」
エルザ「なら寝かせてきな。…目を離すんじゃないよ。世話も一任する」
ローラン「…御意」
ローランが、リトル・トラジティを抱え、シュヴァリエ邸へと入っていく。
エルザ「はぁ…。セバス、事後処理を頼む。ヴィヴィアン、事務処理を頼むよ。私が目を通すだけの状態にして持ってきな」
ヴィヴィアン「御意に」
セバスチャン「御意にございます。…エルザ様、後ほど、何かお飲み物と軽食をお持ち致しましょう」
エルザ「私よりも傷病者を優先しな。私は後でいい。…悪いね。苦労をかける」
セバスチャン「ほっほ…。この歳になれば、堪えませんとも」
セバスとヴィヴィアンが去っていく。
一夜明けた黒の街は、静けさを纏おうとしていた。




