第29話「アビー・マーガレット」
黒の街から遠く離れた、ある寂れた小さい街。20数年前、そこにはアビー・マーガレットという少年が住んでいた。
アビーの父「酒がもうねぇ…!!とっとと買ってこい!!」
アビー「…わかった」
父親、弟のジェラルドと3人で暮らすアビーは、貧しく、家庭も荒れていた。
ジェラルド「兄ちゃん。またお酒買いに行くの?」
アビー「…今度の収穫祭のお祝いの為にね」
ジェラルド「お金あるの?」
アビー「心配するなって。兄ちゃんは仕事頑張ってるから、大丈夫だよ」
ジェラルド「うん…」
アビー「サーカスにも、今度連れてってやるからな」
ジェラルド「うん!」
病気がちの弟の為に寝る間も惜しんで働くアビーだったが、それでも生活費は足りず、足りない分は、盗みで補っていた。
アビー「この本、いくら?」
本屋の店主「また盗んできたのか。もうお前からは買えない。盗品だとバレたらやばいからな」
アビー「ふざけるなよ。横流し品を並べてるの知ってるんだからな」
本屋の店主「チッ…。糞ガキが」
アビーは、自分の名前が嫌いだった。
女の子みたいだと、からかわれるからだ。
アビー(クソッ…。足りない。ジェラルドの薬代にはまだ足りない…。それに、今度サーカスが来るのは一週間後…。もっと…、もっと金がいる…)
街に、一ヶ月ごとに訪れるサーカス団。
ジェラルドは、小さい頃、一目見ただけの、そこのサーカス団のピエロが好きだった。
アビー「ドライフラワー患者を?」
仲介人「そうだ。あいつらを生け捕りにして研究機関に売り飛ばせば、いい金になる。危険だがな」
アビー「やる」
ドライフラワー病は、この街をも飲み込もうとしていた。それは、ジェラルドも例外ではなく、サーカスが来る朝、ライムライトを握りしめて帰ったアビーは、身体から花を咲かせたジェラルドを目にしたのだった。
ジェラルド「ニイ…チャ…」
アビー「ジェラルド!!!!」
アビーの父「そ、そのバケモノをどっかにやれ…!!家から出せ!!」
アビー「黙れ!!!!」
ジェラルド「ニイチャン…」
アビー「ジェラルド!!…サーカスに連れて行くお金…溜まったのに…!!」
ジェラルド「…ゴメンネ…、ニイ…チャン…」
アビー「大丈夫だ…!ジェラルド、兄ちゃんが助けてやるからな。お前を治してやる…!サーカスにも連れてってやる!!」
ジェラルド「アア"……」
アビー「クソ……。ジェラルドオオオオオオオオ!!!」
その日、アビー・マーガレットという少年は死んだ。
そして、スマイルという名の、一人のピエロが生まれたのだ。
スマイル「待ってろ。ジェラルド。もうすぐだ」
自分の顔を反射するガラスケージの奥に向かって、スマイルは一人呟いた。




