第23話「マルコシアスの跡目」
建物の入り口を挟んで、壁に寄りかかりながら通りを眺めるエルザとダンテ。
ローランは一人、辺りを警戒している。
エルザ「もう少し楽にしな。他所様の縄張りで喧嘩売ってると思われるよ」
ローラン「申し訳ございません。エルザ様」
エルザ「はぁー…。全く。肩の力抜かないと、いざって時に疲れちまうよ。そうだろ?」
ダンテ「えっ。あっしは、別に」
エルザ「息抜きに、何か面白い話でも聞かせておくれよ」
ダンテ「あっしは…、言った通り口下手なんで…」
エルザ「何でも良いんだよ」
ダンテ「…じゃあ、聞いてもいいですかい?」
エルザ「何でも聞きな」
ダンテ「エルザ…様は、こういう、あっしらの住処について、どう思ってるんですかい?あんま、縁が無さそうな気ぃしやすが」
エルザ「無理に様付けしなくていいよ。…そうさね。……。無くてはならないとこ、かね」
ダンテ「…へぇ」
エルザ「私らみたいな暮らしが肌に合わない人種ってのがいるもんさ。良いも悪いもなく、ただ違うだけ。…だが、その違いをよく思わない奴のが、世の中多いからね。争いを避けるために、避難する場所が必要なんだろうさ。いつだって、我慢を強いる側が悪者だけどね」
ダンテ「……。何か、意外っす」
エルザ「へぇ?」
ダンテ「なんか、エルザ…さんは、法とか秩序とか、そういうのを大事にすると思ってやしたから。あっしらみたいのをあんまりよく思ってないんじゃないかって思ってやした」
エルザ「そうかい…。そう思われても無理ないねぇ…。ただ、一つ言わせてもらえば、法だの秩序だのってのは、皆が幸せに暮らすためにある物なんだよ。その前提を勘違いして、自分勝手な法や秩序を振りかざすのは、ただの馬鹿さ。ま、私だって、特段賢いわけじゃないけどね。それでも、今までに間違った決断はしてないつもりさ」
ダンテ「…エルザさんって、偉い人なんすね」
エルザ「なんだい?褒め言葉は歓迎だよ」
ダンテ「いや、正直、舐めてやした。親父の足元にも及ばねえんだろうなって。勘違い野郎共とおんなじなんだろうなって。……申し訳ねえです」
エルザ「ふっ…。マルコシアスは、大した男だからねぇ。身一つでスラムから成り上がって、黒の街を纏め上げ、今じゃこの黒の街のドンだ。他の自治区の奴らだって、みんなマルコシアスを無視できない。あいつに貸しを作れたのは、デカいねぇ」
ダンテ「あっ、そういや、何かに付けて親父が、エルザさんへの貸しがどうだの言ってんですよ。何があったんです?」
エルザ「んー?そうさねぇ。答えてもいいけど、質問を続けて2つってのはフェアじゃないねえ」
ダンテ「あっ、すいやせん。じゃあ、何か聞いて下せぇ」
エルザ「へえ?いいのかい?じゃあ……、マルコシアスの用事ってのは何なんだい」
エルザが、親指で後ろの建物を指し示す。
ダンテが、建物の方を振り返った。
ダンテ「あぁ…。親父は…、ここに住んでる女に会いに行ったんすよ」
エルザ「へえ?」
ダンテ「勘違いしねえで下せぇ。イロじゃありやせん。その女の亭主が、元、親父の部下だったんすよ。今日は、そいつの命日なんす」
エルザ「なるほどねぇ…。あいつらしい」
ダンテ「親父にとっちゃ、自分の息子を亡くしたのとおんなじっすからね。いや、そいつとは、歳も近くて、どっちかってえと、兄弟みてえなもんだったって」
エルザ「それは…、辛いだろうね」
ダンテ「…みんな辛かったって言いやす。面倒見の良い、気さくな奴だったみたいでしたからね」
エルザ「そうかい…」
ダンテ「俺も、親父より先に死なねえように踏ん張らねえと。親父の跡目を継ぐのは俺です。親不孝してる場合じゃありませんや」
エルザ「……。楽しみにしてるよ。きっと、マルコシアスもね」
ダンテ「親父の顔に、泥塗らねえようにしなくちゃいけませんや。俺も、親父みてえになりてえんです。なんたって親父は…」
マルコシアス「おいおい。勘弁してくれよ。ケツの穴がむず痒くなるぜ」
ダンテ「おっ、親父。御苦労様です」
マルコシアス「おう。待たせちまったな。こいつが何か失礼をしでかしてなきゃいいが」
エルザ「まさか。良く出来た息子じゃないのさ」
ダンテ「うっす。恐縮っす」
マルコシアス「さぁ、行くとしようか」
マルコシアスとダンテが、並び立って歩き出し、ローランとエルザがその後に続く。
エルザ「…。ローラン。どうしたんだい?」
ローラン「いえ…。……私も彼を見習わなくては…と。それだけです」
エルザ「………………。フッ。期待してるよ」
しばらくして、黒の街の一角に、エンジンを吹かす音が轟いた。
※イロ…情婦。愛人や妾のこと




