第22話「歓楽街」
マルコシアスの運転する車が、黒の街の南、歓楽街へと差し掛かる。
エルザ「おや、寄り道ってのは、何か忘れ物かい?」
マルコシアス「いや、用事があったのをすっかり忘れちまっててな。俺も歳だな」
エルザ「ちょっとした物忘れくらいで何言ってんだい。今ボケられたら困るよ」
マルコシアス「はっはっは。言ってくれるじゃねえか」
マルコシアスがハンドルを切ると、アーケードのようになった一角の前で車が停まった。
そして、ダンテが降りると、エルザの側のドアを開ける。
エルザ「ありがと」
ダンテ「いえ」
続いて、ローランとマルコシアスも車を降りる。
車を降りた四人を、ネオンサインと慎ましい喧騒、そして、紫煙をはらんだ空気が出迎えた。
アーケードの先へと足を踏み入れる一行。
薄暗い雰囲気の建物の軒先で、商売女や、何かの売人らしき男達が、たむろしている。
マルコシアス「坊主。こういうとこは苦手か?」
ローラン「…いえ。そういう訳ではありませんが」
マルコシアス「そうそわそわするなよ。俺がいるんだ。事を構えようなんて馬鹿なやつはいないさ」
エルザ「そうだよ。というか、ある程度こういう場にも慣れときな」
ローラン「御意に。エルザ様」
マルコシアス「へっ。俺もこんな頃があったっけな…。あの頃に戻りたいぜ」
エルザ「本当にねぇ…。ま、今も気に入っちゃいるけどね。で、どこに向かってんだい。マルコシアス」
マルコシアス「ちょっとな。何だったら、そこいらで遊んで来てもいいぜ?俺のツレだって言やぁ、どの店もタダだ」
エルザ「おや、そいつは気前がいいね。行ってくるかい?ローラン」
ローラン「エルザ様がそれをお望みでしたら」
エルザ「…うーん。少しは女遊びも覚えさせるべきかねえ」
マルコシアス「やめとけやめとけ。坊主は一人に入れこんで破滅するタイプだ。お前さんと違って女遊びは向かねえよ」
エルザ「心外だね。私だってこう見えて、意外と一途だよ?…あんたはどうなんだい?モテるだろ」
ダンテ「あっしですかい?まぁ、そりゃあ人並みには」
マルコシアス「よく言うぜ。こないだアブサンのとこの娘っ子に刺されそうになってただろ」
ダンテ「あれは…、あっちが勝手に勘違いしただけでさぁ。別の店に顔出しただけでいちいち刺されてちゃかないませんや」
エルザ「気を付けるんだよ?そういうタイプは後引くからね。私なら…、いっぺんホントに刺されてやるかね」
マルコシアス「ほう?思い切るじゃねえか」
エルザ「言ったろ。一途なんだよ。私は」
ローラン「……」
エルザ「ま、身代わりに刺されにいくような奴がいるから、やめといた方がいいかもしれないけどね?」
ローラン「…。私は、エルザ様に危害を加える者を排除するだけです」
エルザ「頼りにしてるよ」
マルコシアス「フッ…。お前は弾除けになろうなんて馬鹿なこと考えるんじゃねえぞ。俺が許さねえからな」
ダンテ「何も言ってませんや」
やがて、マルコシアスが、ある建物の前で足を止める。
マルコシアス「ここだ。悪いが待っててくれ。すぐ済む」
エルザ「ああ。私らの事は気にしなくていいよ。勝手に暇つぶしてるから」
マルコシアス「おう。ダンテ、任せたぞ」
ダンテ「うっす」
マルコシアスは、階段の闇に消えていった。




