第16話「マルコシアスの勘」
温室の屋上階。
先の尖った鉄柵にもたれ掛かるエルザの下へ、歩み寄る2つの人影。
マルコシアスと、マウリツィオである。
マルコシアス「よう、エルザ。災難だったな」
エルザ「マルコシアス。来てくれて助かったよ。これで借りはチャラだね」
マルコシアス「おいおい。冗談キツイぜ。何がチャラだって?こいつは、俺達の義務だ。お前さんから連絡を受けなくてもやってたさ。むしろ、連絡をくれて助かった。救助が遅れたなんて事になれば面目丸つぶれだからな…。そういう意味じゃ、更に貸しを作っちまったことになるんじゃないか?」
エルザ「勘弁しとくれ。…そこの若いのも、助かったよ。ありがと」
マウリツィオ「……。自分はパパの言うことを聞いただけだ。……。お礼はパパに言え」
マルコシアス「おいおい。マウリツィオ…」
エルザ「はは!!いいさいいさ。貸しとか借りとかはさておいて、この礼はいずれちゃんとさせてもらうよ」
マルコシアス「ふん…。楽しみにさせてもらうぜ…」
踵を返し、屋上から出て行くマルコシアス達。
だが、途中でマルコシアスが振り返る。
マルコシアス「…エルザ。この黒の街を取り仕切ってる今の5大組織の中では、俺が一番の古株だ。だが…、温室でコトが起きたなんてのは、俺の知る限りただの一度もなかった。…気を付けろ。黒の街で何かが起こってる」
エルザ「…ああ。あんたのとこも気を付けな」
マルコシアス「何かあったら、貸しだの借りだの下らねえこと言わずにすぐに俺に言え。いいな?」
エルザ「……はぁ。やけにしつこいじゃないか?」
マルコシアス「まぁな。カンってやつだ。だが、俺のカンは外れた事がねえ。とにかく、何かあったら俺に言うと約束しろ。いいな?」
エルザ「はいはい。そうさせてもらうよ。シュヴァリエの名に誓うさ」
マルコシアス「…………。まあ、それでいい。邪魔したな」
今度こそ、屋上を後にするマルコシアス達。
入れ違いに、ローランが入ってくる。
ローラン「エルザ様。避難は完了。事後処理も滞りなく進んでいます」
エルザ「ご苦労。…ん?冴えない顔だねぇ。どうしたんだい」
ローラン「エルザ様…、実は、気になる点が」
エルザ「言ってみな」
ローラン「警備に配置されていた白薔薇の団の者が2名見当たらず、連絡もつきません」
エルザ「……。やられたかねぇ」
ローラン「敷地内と周辺をくまなく捜索しましたが、遺体すら見つかりませんでした」
エルザ「……………。人員を確保して、範囲を黒の街全体にして捜索を進めな。後は、現場に何か痕跡が残ってないかもしっかり調査するんだよ。気になる魔具を持ってるやつも見かけたしね」
ローラン「気になる魔具ですか?」
エルザ「あぁ。詳しいことは分からないが、デカい鎌の形をした魔具で、斬りつけた場所を、ドライフラワー病罹患者から生えるやつに似た花や、炎に変えてたね。フィガロ・ガルヴァーニとか名乗る奴が使ってたよ」
ローラン「フィガロ・ガルヴァーニ…」
エルザ「どうも気になる…。ヘルタースケルターの関係者リストにそんな名前の奴がいたような気がするんだよ」
エルザ(それに、奴はケイトのことも知っていた風だったしね…)
ローラン「すぐに調べます。行方不明者の捜索と、現場の調査もすぐに手配します」
エルザ「頼んだよ」
ローラン「御意に」
屋上を後にするローラン、それを見送るエルザ。
エルザ「…マルコシアスの勘が当たっちまったかねえ…」
黒の街の闇が深まっていく。




