第11話「レディ・ブラン」
エルザ「ったく。本当に嫌な雨が続くねぇ。人が出掛けようって時に限ってこうだよ」
ローラン「エルザ様」
エルザ「あぁ、ありがと」
ローランの差す傘に入るエルザ。
昨夜とは違い、白薔薇の団の正装に身を固め、腰にはサーベル型の魔具、「ジャンヌ・ダルク」を帯びている。
ゾエ・マルグリット「行ってらっしゃいませ。エルザ様」
エルザ「ああ。留守は頼むよ」
振り返らず、そう言うと、さっさと階段を下り始めるエルザ。
ローラン「エルザ様。お屋敷の門まででもお車を用意した方がよろしかったのでは」
エルザ「いいんだよ。少し歩きたい気分だからね」
そういってエルザは、終始無言で石畳の上にブーツを打ち付け、やがて屋敷の門から街へと出る。
シュヴァリエ邸は、比較的学校や病院の多い区画に建てられているので、エルザが街に踏み出すと、子供たちが学校へと登校する場面に出くわした。
子供1「あっ!エルザ様!!」
子供2「エルザ様だ!!おはようございます!!」
エルザ「あぁ、おはよう。気を付けて行くんだよ」
子供たち「はーい!!」
手を振りながら駆けていく子供たちに、軽く手を振り返すエルザ。
エルザ「子供が元気なのはいい事さね」
ローラン「そうですね」
再び街へと歩き出すエルザ。
レンガや石、また、所々に蒸気機関や機械が見え隠れする街並みを歩くエルザに、街行く人々は声をかけるのだった。
街の人1「エルザ様!パン焼きたてだから、一つ持ってってよ!!」
エルザ「ちゃんと払わせとくれ。ここのパンは安売りするようなもんじゃないよ」
街の人2「エルザ様!ごきげんよう!」
エルザ「あぁ、ごきげんよう」
街の人3「エルザ様。この間は本当に助かりました…」
エルザ「いいんだよ。歳の事はあんまり言いたかないけど、外出るときは気を付けるんだよ。ただでさえ物騒だからね」
街の人4「エルザ様!!今度子供が産まれるんです!!良かったら名付け親になって頂けませんか!!」
エルザ「んー。考えとくけどあんまり得意じゃないよ?」
街の人5「エルザ様!!エルザ様のお陰で、姪が大学に行けました!!本当に感謝してもしきれません!!」
エルザ「大したことじゃないよ。また何か困ったら言いな」
自警団員「エルザ様!!見回りお疲れさまです!!」
エルザ「あぁ。あんたもね。しっかりやっとくれ」
自警団員「はい!街の平和は当職にお任せください!!」
エルザ「頼もしいねぇ」
その後も、街行く人に声をかけられながら歩くエルザとローラン。
二人が目指す先には、街中を縦横に巡る鉄道の駅の一つがあった。
エルザ「空いてるねぇ」
ローラン「車の方が便利ですからね」
向かい合うように設置されている二人がけの席に座る二人。
やがて二人を乗せた列車は、蒸気と唸りをあげて走り出す。
エルザ「街は平和そのものだね」
ローラン「ええ。これも、エルザ様のお力あっての物です」
エルザ「白薔薇の団の皆の、だよ。それに、鴉や、マルコシアス・ファミリーの力だって借りてる。スマイルのとこのギルドですら、必要不可欠な存在なんだ。……この平和は、誰か一人の力で保ってる訳じゃないんだよ。ヘルタースケルターだけは別だけどね」
ローラン「……。」
エルザ「それに…、路地を一本隔てれば、そこでは人が死んでるなんてことが日常茶飯事だ。今よりもっと平和にしなきゃなんないんだよ。私ら、上に立つ人間がもっとしっかりしないとね」
ローラン「…浅慮でした」
エルザ「ふっ…。揚げ足取るような事言っちまったね。褒め言葉は素直に受け取るもんだってのに。……ありがと」
一時間後。
列車から降りた二人は温室へと辿り着いた。
広がる倉庫群の中、一際目立つ、堅固な隔壁の向こうに建てられた温室。
2人は、その入り口に立つ。
ローラン「白薔薇の団、エルザ・シュヴァリエとローランだ」
音声アナウンス「ようこそ、エルザ様。歓迎いたします」
蒸気と、金属が駆動する音を立てて、隔壁が上下左右ランダムに開いていく。
やがて、隔壁には人一人が通れる隙間が出来ていた。
エルザ「さ、行くよ」
ローラン「はい。エルザ様」
二人は、広大な敷地へと足を踏み入れる。




