第10話「八咫烏神社」
黒の街の一角、そこには、幾重にも連なる鳥居を構えた社が、森の中に潜むように佇んでいた。
鴉の本拠地、「八咫烏神社」である。
黒の街も正午に差し掛かり、午前から降っていた雨が強くなろうという頃、神社に満身創痍の人影がよろよろと現れた。
拝殿から、暮雨が姿を現す。
暮雨「…如何なことだ」
神社の参道へ歩みを進める暮雨。
満身創痍で暮雨の前へと急ぐ人影は、鴉に属する暮雨の部下であり、スマイルの動向を見張っていた人員だった。
忍び1「ご…ご報告…。『茨』の者が…スマイルに……ぅ……」
暮雨の前に跪くも、そのまま崩れ落ちる忍び。
暮雨「小雨丸」
小雨丸「はっ」
暮雨の傍らに、もう一人、跪いた人影が音もなく現れる。
彼は暮雨の腹心、小雨丸である。
暮雨「手当を」
小雨丸「はっ」
忍びを連れ、拝殿に向かう小雨丸。
肩を貸され、連れて行かれながらも、暮雨へ報告を続ける忍び。
忍び1「警告を……!エルザ殿に………うっ……!!ぐっ……!!エルザ殿に………!!ごほっ……ごほっ………!!」
暮雨「下がって休め。よく報せを持ち帰った」
忍び1「ぐ……ぅ……」
気を失う忍び。
暮雨「…ジョナサン」
ジョナサン「はいデース!」
更に、音もなく暮雨の傍らに現れた男は、ジョナサン。
暮雨の部下である。
暮雨「エルザ殿に言伝を。急あり、キツネの巣にネズミが落ちた、と。エルザ殿に確実に伝えよ」
ジョナサン「承知デース!!」
音もなく消えるジョナサン。
暮雨「…雲行きが怪しくなってきたな…。黒の街で、何が起きている…?」
愛刀、舞牡丹の石突きを地面につけ、柄に手をやり佇んでいた暮雨だが、刀を携えると、そのまま神社の拝殿へと上がっていく。
拝殿の戸を開き、中へと入る暮雨。
暮雨「小雨丸」
小雨丸「はっ」
暮雨「どうだ」
小雨丸「命に別状は有りません。しかし、酷い怪我です。大口径の弾丸を受けた傷がありました。それから、脇腹を抉られています」
暮雨「…………。弾は摘出したか?」
小雨丸「いえ、体内に弾丸はありませんでした。魔力にて生成された物かと」
暮雨「……。意識はあるか?」
小雨丸「いえ、しばらく意識を取り戻せそうにはありません。いつ目が覚めるかも…、申し訳ございませぬ」
暮雨「いや、よくやった。命を取り留めただけでも良しとしよう。…小雨丸」
小雨丸「はっ」
暮雨「お前に任を授ける」
小雨丸「なんなりと」
暮雨「この者に代わり、しばらくスマイルを見張れ。怪しい動きがあれば逐一、知らせよ」
小雨丸「はっ」
暮雨「行け」
音もなく消える小雨丸。
暮雨は、小雨丸に代わって忍びの手当てを続ける。
暮雨「……。生きて帰れよ」
雨が、激しく降り出した。




