第99話「少女エスメラルダ」
静まり返る議事堂。
今や見る影もなく壊れた部屋の中で、ヘルタースケルターが、他のドライフラワー患者たちと同じように、塵になって消え去ろうとしていた。
エルザが、そちらへと右手だけで這って行く。
ヘルタースケルターは、ただ空を見上げていた。
やっとのことでヘルタースケルターのもとへ辿り着いたエルザが、自身の震える身体を起こす。
ヘルタースケルター「どうして…?私はお友達が欲しかっただけ…。家族が欲しかっただけよ…」
エルザ「……」
ヘルタースケルター「一人は嫌…。もう寂しいのは嫌…」
エルザが、自身の膝にヘルタースケルターの頭を乗せる。
ヘルタースケルターの揺れる緑の瞳が、エルザの方へ動いた。
黙ってヘルタースケルターの頭を撫でるエルザ。
ヘルタースケルター「ねぇ…。何がいけなかったの…?何を間違えたの…?何で…一人ぼっちになってしまったの…?」
エルザ「もう、いいんだよ。眠りな」
ヘルタースケルター「寒い…。寒いわ…。エルザ……」
ヘルタースケルターが手を伸ばし、エルザはその手を握る。
ヘルタースケルター「怖い…。許して……。ごめんなさい…。ごめんなさい……」
エルザ「いいんだよ」
ヘルタースケルター「ねぇ……。私のこと…エスメラルダ……って……呼んで………」
エルザ「エスメラルダ。いい子だね」
ヘルタースケルター「………うふふ…エルザ……お姉さまみたい……」
エルザ「……」
ヘルタースケルターの頭を撫で続けるエルザ。
ヘルタースケルター「……ねぇ…、お姉さまって…呼んでもいい……?」
エルザ「あぁ」
ヘルタースケルター「お姉さま……」
エルザ「……エスメラルダ」
ヘルタースケルター「お姉さま……眠いわ……」
エルザ「…………」
私の白い薔薇という歌を歌うエルザ。
ヘルタースケルターは静かに耳を傾ける。
やがて、エルザが歌い終えた。
ヘルタースケルター「……素敵」
エルザ「私の大事な人がつくってくれた歌だよ」
ヘルタースケルター「まぁ……。その人とも………仲良くなれるかしら………」
エルザ「あぁ。なれるさ…。お前はいい子だからね」
ヘルタースケルター「………うれし…い……わたし……もう…ひとりじゃないのね………」
瞳を閉じゆくヘルタースケルター。
エスメラルダ「………おやすみなさい…………おねえ……さま………」
エルザ「おやすみ。エスメラルダ」
サァ...っと。
どこかへと風に吹かれて消え逝くヘルタースケルター。
たった一人、瓦礫の山に取り残されたエルザを、月の光だけが照らしていた。