第98話「光」
ヘルタースケルターが、自身の胸に刺さった燭台ごとエルザの左腕を掴み、思い切り投げ飛ばす。
ヘルタースケルター『あああああッ!!!!』
エルザ「ぐぁああああっっ!!!!」
エルザの左腕が嫌な音を立てた。
既にかなり痛めていた腕が、限界を迎えたのだ。
苦悶の呻き声を上げながら、床の上を転げ回り、のたうち回るエルザ。
ヘルタースケルターも、両手で胸を押さえ、痛みに喘いでいる。
エルザ「あっがぁ…ああああ!!!」
ヘルタースケルター『痛い!!痛いぃ!!!』
エルザは一足早く我を取り戻すと、ジャンヌ・ダルクを握った右手で床を叩いて起き上がり、ヘルタースケルター目掛けておぼつかない足取りで駆け出す。
エルザ「っ…ああぁあああ!!!」
ヘルタースケルター『許さない、許さない…!許さない!!エルザぁアアアア!!!』
エルザ「ジャンヌ・ダルク!!」
エルザの声を聞いたヘルタースケルターが、まばらになったツタを自身に巻き付けて身を守る。
だが、エルザの持つサーベルから障壁は展開されなかった。
障壁を張るフリをしただけだ。
動きの止まったヘルタースケルターに、エルザがジャンヌ・ダルクの刀身を渾身の力で突き込む。
エルザ「っはぁあ!!」
ジャンヌ・ダルクが、ヘルタースケルターの胸に突き立った。
ヘルタースケルター『イヤァアアアアアアア!!!!!!』
エルザがジャンヌ・ダルクの一撃を見舞った箇所は、燭台が刺さったのと同じ場所だった。
エルザ「っあああ!!!」
エルザが、更にジャンヌ・ダルクを深く抉り込む。
ヘルタースケルター『アアアアアアァァァァァ!!!!!』
たまらず、ヘルタースケルターが、ツタを滅茶苦茶に振り回す。
エルザは、受けることも避けることも出来ず、もろに攻撃を喰らってしまった。
エルザ「ッ…ガフっ!!!…ァ!!」
エルザは、円卓のある部屋の方へと吹き飛ばされた。
ドアを突き破り、円卓を自身の身体で粉々に破壊してようやく止まる。
エルザ「…く……ぁ……」
力なく床に倒れ伏すエルザ。
そこへよろよろと歩み寄る足音。
エルザには、顔を上げる力も無かった。
ヘルタースケルター『…エルザぁ…!ッ…エルザ…!!』
エルザ「……ぅ…」
刻一刻と距離を縮めるヘルタースケルターに対して、エルザが出来ることは何も無かった。
エルザ (…負ける?…私が負ける?嫌だ…!私が負けたら!そんなの…!!絶対に…!)
ヘルタースケルター『…これで、終わりよ…!!』
エルザ「…動け……!!動け…ぇっ…!!!」
エルザが、身体に力を込めようとするが、右手がピクリと動くのみで、立ち上がれない。
ヘルタースケルターが、ツタの1本を振り上げる。
と、そこへ。
セバスチャン「我が主に何をする!」
巨大な大剣型の魔具、サンジェルマンを振り上げたセバスチャンが、割り込んだ。
エルザ「………セバ…ス…」
ツタを打ち払い、ヘルタースケルターを押し戻すセバスチャン。
ヘルタースケルター『ッああ!!!いつもいつも…!皆、私の…!!!』
ヘルタースケルターが、激昂する。
全身を激しく紅く光らせるヘルタースケルター。
セバスチャン目掛けて真っ赤な拳を振り抜く。
ヘルタースケルター『邪魔をするなぁあああああ!!!!!』
セバスチャンは、両手に持った魔具、サンジェルマンを交差させて攻撃を受け止める。
エルザ「セバス……!」
セバスチャン「エルザ様。私めにお任せを」
ヘルタースケルターの攻撃を受けきれず、サンジェルマンにヒビが入った。
サンジェルマンの能力による代償で、セバスチャンが深い傷を負う。
エルザ「セバス…ッ!!!」
血を流すセバスチャンが、エルザの方を振り返った。
セバスチャン「ほっほ。なぁに。この歳になればちっとも堪えませんとも」
セバスチャンが、渾身の力でヘルタースケルターを押し返し、空中へと弾き飛ばす。
ヘルタースケルター『っああ!!』
セバスチャンが魔具、サンジェルマンを握り、告げる。
セバスチャン「絶望伯 (サンジェルマン)」
黒の街の空に向けて、一条の光が放たれた。
セバスチャンの命と引き換えに放たれたその光は、議事堂の屋根を吹き飛ばし、黒の街を白一色に染め上げる。
エルザ「セバスゥウウウウウーー!!!!!」
そして、静寂が満ちた。