エピローグ
「アンもついに結婚か〜」
「あの子、おっとりしてるからまだ大丈夫かと思ってたのに」
さらさらと流れる大河で、洗濯をする女が二人。
ある作戦会議のためにあえて時間をずらして来たので、他には誰もいなかった。
「それで、どうする?結婚式」
「そうねえ、いつも通りの事しか浮かばないけれど」
「結婚式と言えば、この間のリリー様と近衛騎士様の結婚式見たかったな〜」
「かなり話題になったものね。ケビン様公認の、身分の垣根を超えた純愛!ま、こんな田舎からだと遠くて行けないけど」
彼女達が住まうのは小さな村。
貴族の様な豪勢な結婚式は夢のまた夢。こうして仲の良い友人や家族達が、いつもより豪勢な食事を用意するくらいの簡易的な物が一般的だった。
「でもせめてドレスは欲しいわよね」
「それ、いつも言ってる」
「だってやっぱり夢じゃない?」
「そうだけど、どの家も生活必需品以外の物には厳しいでしょ」
花嫁もおろしたての白いワンピースを着るくらいの簡素な物だ。
彼女達は誰かが結婚する度に嘆いていたのだった。
「いっそみんなでお金出し合ってそれ着回すってどう?」
「それいいわね。一体いくらするのかしら…ん?」
その時、彼女らの手元にくる様に白い布が流れ着いた。
誰かが間違えて流してしまったのだろうかと、手にとって広げてみる。その瞬間、二人は息を呑んだ。
「こ、これって…」
「ドレス…?」
シンプルなデザインで出来たその白いドレスは、所々汚れてはいるものの、ウェディングドレスだと一目で分かった。
しかも触った事のない様な上質な布で、そのおかげか奇跡的にどこもほつれていなかった。
二人は目を丸くさせながら見つめ合う。
「な、なんかちょっと怖くない?」
「ドレスの話してたら流れてくるなんて…」
じゃあ捨てる?という空気が一瞬出たが、それは出来なかった。
怖すぎる偶然だが、奇跡とも言えるからだ。
「流れてきたものなんて不吉かしら…?」
「で、でもさ。こんな上質な布で作られた物なんて早々手に入らないわよ?」
「とりあえず…」
村のみんなに相談に行くわよ!と二人は洗濯物も放って駆け出した。
後にそのドレスは幸せを運ぶウェディングドレスとして、この村でたくさんの花嫁に着用された。




