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十五歩目.逃亡先にて、少女は説明する



 本気の私に対抗できる……?

 わざわざ本気という言葉を使ったと言うことは、つまり。


「傷を負った私と同程度の戦闘力を持っている、という認識であっているか?」


 岩崖によりかかり地面に腰を下ろしながら聞くと、リーアは少しだけ違うと訂正を入れた。

「あくまで理論的には可能である、という話です。ワタクシの知る限りではまだ到底レヴィには追いつけそうもありませんでした。

 ただ、瞬発的な魔力量はレヴィと同等である為、三の魔法師の魔力操作能力がレヴィを上回れば、或いは――ということです」


「魔力量が、同じ?

 しかも瞬発的にということは、私のように最大魔力量を増加させるには何らかの条件が必要というワケか?」


 ふと脳裏に、三の魔法師の妹だとかいう存在がよぎる。兄である三の魔法師から話しかけられても、ただうずくまったまま虚に笑い続けていた少女の姿が。

 ……まさか。


「ええ。三の魔法師が魔法を使う役目にいるとすれば、その妹が魔力タンクのような役目にいると表現すれば良いでしょうか。

 彼女は、恐怖によって最大魔力量の増加と魔力の大量生成を行います。もしかすると魔力の操作能力も向上しているのかもしれませんが、レヴィよりも直接的に心へとダメージを負うことから、検証のできた試しが無いそうです」


 やはり、彼女が、だったのか。

 心に、直接苦しみを負っていたから、何も答えられなかったのか。

 あの笑顔は、恐怖を通り越し壊れた心の叫びだったのだろうか。


「なる、ほど。私の他にも苦しんでいる人は――いや、言い訳にしかならんな。私は己の身だけしか考えていなかったことは、事実なのだから」

「ですから! レヴィを連れ出したのはワタクシです。レヴィは、これ以上、レヴィのことを責めないで下さい。

 それに、三の魔法師の妹は、確かに恐怖による過剰防衛反応を目的として王宮に囲われております。ですが、彼女自身は苦しんでいない。貴女程、ワタクシは苦しみもがいていた人を、知りません」

「…………どういうことだ? 恐怖は、辛いものだろう??」

「価値観は人によって違うというだけですよ。

 ねぇレヴィ、それよりも、レヴィが確かめた捻れた空間について教えて下さいませんか?」


 そう告げたリーアの言葉を押し退け、更に問いで詰め寄ろうとして、気付いた。リーアが今までにないくらいに顔を顰めていることに。

 これ以上はいけないと、理性が止める。王宮のやり口に辛さを覚えないでいられることへの詳細を知りたいからと言って、別にすぐじゃなくたって良いんだ。どうせ三の魔法師らは私らを追ってきて、どこかのタイミングで話を聞けるタイミングがあるかもしれないから。


 今は、やらねばならぬことがある。

 リーアに隷属されてついてきたのは事実であるが、私自身がリーアの願いを手伝うと決意したこともまた、本当のことなのだ。



「わかった、私の集めた結果を話そう」


 どれだけ時間があっても足りないのが現状なら、時間を無駄に浪費するワケにはいかない。


 お願いしますと表情を変えたリーアに、頷き、私は話し始める。


「まず、捻れた空間は、ある一人によって作成されたものであろうことがわかった。恐らく、意図的に作成されたんだと思う。これら二つの推測の理由は、私の調べた限りでは一種の魔力しか感じ取れなかったから、だな」

「意図的に、ということは……もしや、」

「ああ、もしやだ」


 単に捻れた空間を作るだけなら、私にもできる。

 無論傷を負って能力を底上げせねばならぬが、それでも右足を付け根から斬り落とすよりかはずっと少ない代償で済むはずだ。


 けれど、あの空間は、ただの捻れた空間では無かった。


「簡単には壊せぬよう、防護がされていた。加えて、壊す暇を与えぬようにか、自動で三次元空間へとめり込んでいくように構成されていた。まるで、テンプロート王国を閉じ込めようとしていたかのように、感じた」

「もしレヴィが今すぐこの空間を壊そうというなら、どれほどの傷が必要でして?」

「どれくらい、なんだろうな。下手すると、私一人の命では足りないくらいかもしれん。それだけ、防護が強烈にかけてあったからな。もう少し時間があれば、解くためのとっかかりくらいは掴めたやもしれんが、現段階での情報だけだと、多大な魔力量でゴリ押す他に手口を考え付かんもので」


 ゴリ押すと一口に言っても、痛みで上がった魔力操作の力を全力で行使して、その上での話だ。

 もちろん、命を絶つまで傷を負ったことはないから、私の本当の限界を知ってはいないのだが、ある程度の予想はつけられる。

 同時に、捻れた空間を作った人の実力が、吐き気を催す程に高いことも。


「もう一つ、わかったことがある。こっちは事実に基づく推測ではなく、単純に調べて判明した事実だ」


 聞き耳を立てるリーアに、私は調査の結果を脳内で反芻してから続きを口にした。



「捻れた空間は、世界全土を覆ってはいなかった。つまり、捻れた空間の外には、テンプロート王国以外の国が現存している可能性がある」



「――それは」

「あるかどうかまでは、正直まだわからない。いや、調べられないようにガードがかけられていた、と言うべきだな。これも時間と、あと魔力があれば先までわかるとは思う」

「待ってください。捻れた空間が一定範囲で終わっているというのは、本当なのですか? 認識阻害されているとかではなくて?」

「本当のことだ。阻害の為に魔力を割いた形跡は見られなかったし、私が術者であってもそうするだろうからな。阻害、或いは、リーの場合だと隠密系の方がわかりやすいか。これらの魔法は、この世で一番だという絶対の自信がない限り、基本的に自分より実力が下だろうと予測のつく相手にしか使わないだろう?」


 もちろんです、とリーアは頷く。

「自分と同程度、もしくは自分以上の使い手ですと、簡単に魔法を解かれるか、そもそも解かれていないのにバレていたということもあり得ますから……ああ、なるほど。そういうことですか」


 夜逃げする時にリーアが隠密の魔法を使って、通りすがりの兵士等に私らが見つからなかったのは、リーアの魔法が兵士らの実力を上回っていたから。

 通常時の私レベルでは、まず間違いなくどこかで露見していた。

 ようは、同程度以上の実力を持つ存在が調べることを考慮するなら、調べられたくない情報についてまるでないかのように隠すよりも、あるかもしれないことはわかってでも『本当かどうかはわからない』という状態にしてしまう方が確実なのだ。


 空間の捻れも、一定範囲で終わっていることだけならどうにか判明したが、外がどうなっているのかまではわからなかった。

 阻害などで魔法のリソースを削って露見するのを防ぐ為のガードが弱くなるくらいなら、最初から情報そのものを調べられないようにする為に全力を注いだ方が良いはずだし、きっと空間の捻れを作った人もそう考えるだろう。


「とにかく、今回の調査でわかったのは以上三点だ。単独かつ意図的に作られたもので、しかも一定の範囲内で収まっていることだな」


 次はどうするか、三の魔法師らに見つからぬうちに決めよう。

 私はそう、リーアに提案した。



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