表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/145

九十九話 教皇と聖女


「ロランスが戻って来てくれて一番嬉しいのは、ロイドと警護役を変わってくれた事だね」


「あの男は貴方に対する敬意が足りていない。俺は貴方を裏切らないと誓いましょう」


「あぁ、それは君を見れば分かるよ。助かるね」


 聖リント教会、迷宮都市支部。

 そのマスタールームに、朔間疑徒とその警護と秘書を務める男の姿があった。

 と言っても、朔間疑徒は仕事の管理をほぼ全て自分で行ってしまうが故に、秘書としての役割をロランスが求められる事は極めて稀だ。


「勿体なきお言葉です」


 書類仕事を片付けながら、そんな会話をしながら朔間疑徒が置かれた紅茶に手を付けた。


 トントン。

 それと同時に扉がノックされた。


「来たみたいだね、入りなさい」


 そこに現れた聖リント教会の事務担当が、マスターへ報告する。


「昨日、我が探索隊と遭遇した時、アナライズアーツギルドマスター天空秀と共にいた探索者が来ております」


「何だと? それを通したのか!?」


 ロランスが、睨みつける様に事務員へ視線を向ける。

 Sランク探索者の圧力を一身に浴びた事務員はすくみ上り、自らのマスターへ縋るような視線を向ける。


「ロランス、それは私が命じた事です。止めてください」


「はっ! 失礼致しました。お前も悪かった」


「い、いえ…… それで現在ロビーでお待ちいただいていますが如何致しましょうか?」


「ここへ連れてきてください」


「よろしいのでしょうか?」


 ロランスに恐る恐る目くばせしながら事務員はそう問う。


「マスターの命令だ。聞くのが仕事だろ」


「畏まりました。直ぐにお連れ致します!」


 それから、数分ほどして『聖女』聖名守凛佳が社長室(マスタールーム)へ入室する。


 すらすらとした白髪を靡かせて、神々しいまでの美貌と魔力を放ち、彼女は現れた。


「探索者をしている、聖名守凛佳といいます。今日は話をする機会を頂けてありがとうございます」


 奇麗にお辞儀をした後、彼女は目の前の人物をじっと見つめた。


「ここへ来たという事は、私が名乗る必要は無いでしょう。それで、私に資格はありますか?」


「はい。間違いなく、最初の条件は達成しています」


「それは良かった。それでは、一応用件を聞いておきましょうか」


 不敵な笑みを浮かべ、教皇は聖女へ問う。

 ここへ来た目的はなんだ、と。


「天空さんは、勇者になる事を拒みました。なので、次点で可能性が高い貴方を勇者にします」


(天空秀がダンジョンに居る時点で、勇者の称号を拒んだという事は容易に想像できた。勇者の覚醒には一月掛かるのだから、その間は安全な場所で待機して置く筈だ。ダンジョンに居た時点で『クラスの消失』が起こっていないという事になる。ならば、その状態で俺という天空秀以外のレベル300オーバーの存在を目にすれば、聖女は天空秀を絆す以外の可能性に気が付くと思った)


「思い通り、と言う表情ですね」


「えぇ、上手くいってほっとしています。それで、私の所に来たという事は天空秀を殺す事を『容認』してくれるという事ですね」


「いいえ、『協力』を惜しみません」


「そうですか……」


 少し、悲しそうな表情で朔間疑徒は呟いた。


「なっ…… そんな言葉信用できるはずが……!」


 ロランスが聖女に向けてそう怒鳴るが、その彼が信仰すらするギルドマスターが手を上げその言葉を制する。


「ロランス、少し静かにしていて下さい。今、私は彼女と話している」


「しかし…… この女はアナライズアーツのスパイの可能性があります」


 そんな言葉は信用できないと、それが主であっても危惧のために大声を出す。

 それがロランス・モローという男の騎士道だ。

 けれど、それは朔間疑徒にとって煩わしい物だったようだ。


「ロランス…… 黙れと言っている」


 睨みつけ、魔力すら放ち、教皇は己の率いる最上位の部下を睨みつける。


「申し訳ございません」


 そこまで言われてしまえば、ただの護衛でしかない彼は押し黙るほかない。


「天空秀の事は私も調べました。自分の眼を他の何よりも信じている。それを対価に差し出せと言われれば、断るのは確かに自然な流れですね」


 一人、納得するように朔間疑徒はそう呟く。

 その姿に聖女は一つ疑問を思い出し、それを問う。


「あの、何故そこまで勇者や私に役割に関して詳しいのですか?」


 まさか、自分の様な存在が別に存在するのだろうか。

 そんな考えが頭に浮かび、そして称号の獲得条件からそれを否定する。

 称号は条件的に、同じ称号を同時に一人の人物しか獲得する事ができない。ならば、それを与える存在が何人も必要とは思えなかった。


 それに、聖女の知識の中に他の聖女の存在など記載されていなかった。称号は同じ物を同時に一つしか与えられない、聖女にもそれは共通する条件の様に思える。


「それは、私が勇者になった後でお教えしますよ」


 はぐらかす様に、朔間疑徒は話題を変える。


「それで、勇者になった後の話ですが、貴方は私に勇者の称号を授けた後はどうするんですか?」


「勇者のサポートをするのが私の存在理由です。貴方と共にダンジョンを進みながら、賢者や剣聖の称号候補を探す事になるでしょうね」


「では、全ての称号を与え終わった後は?」


「それは勿論、その方々とダンジョン攻略を始めます」


 同質の質問を繰り返された事に違和感を覚えながら、それでも自分の目的を聖女は話していく。


「では、勇者がダンジョンには行かないと言ったら?」


「……どういう意味ですか?」


「他意はありませんよ。ちゃんと私はダンジョンに行きます、けれどそういう可能性の場合はどうするつもりなのだろうと、単純に気になっただけです」


「勇者無しで、ダンジョンを攻略できるとは思っていません。だからダンジョンに一人で行こうとは思いません」


「そうですか。理解しました」


 背中を椅子に預けた後、何か達成感のある表情で、教皇は天を仰ぐ。


「ロランス、彼女のギルド所属の手続きを任せます」


「はっ。仰せの通りに」




 ロランスが聖女を連れて部屋から出ていく。

 朔間疑徒は自室で一人、――笑っていた。


「ついにここまで来た。これでやっと呪いを解けるんだ……」

「面白そう!」

と思って頂けましたらブックマークと【評価】の方よろしくお願いします。


評価は画面下の【★星マーク】から可能です!

1から5までもちろん正直な気持ちで構いませんので是非。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ