九十七話 二度目の邂逅
「今何種類目だっけ?」
「20は行ったんじゃないでしょうか」
聖名守凛佳と探索を始めて、五時間程経った頃。
そんな話をしながら、そろそろ今日は切り上げようかと考え始めた頃だった。
俺の【鷹眼】が、その集団がこちらに近づいて来ている事を感知した。
「おや、これは天空さんじゃ無いですか」
聖リント教会の探索隊。
しかも、ギルドマスターである朔間疑徒自身がそれを指揮しているようだ。
朔間疑徒は、横に居た聖名守凛佳にチラッと目を向け、それを直ぐに俺に移してそう言った。
問題は、その探索隊が何のためにここに現れたのかと言う話だ。
まさかとは思うが、今度は俺を狙って現れたという可能性だってあるんだから。
こいつはほぼ100パーセント、殺意と言い換えていい程の不利益を俺に与えようとしている。
それだけは鑑定れば分かる。
ただ、今俺は『商人』から手に入れた帰還の指輪を身に着けている。この魔道具は三度使用すると壊れるという制限はあれど、設定された位置に即座に転移する事ができる。
なれば、ここで会話に花を咲かせるのも一興か。
「そんな大人数で何やってたんだ?」
「随分と、荒々しい口調じゃないですか」
「悪いが、俺にとってあんたは仲間を害した犯罪者以外の何者でも無い」
「なるほど、それならば仕方ないですね。そして最初の質問ですが、『準備』と言うのが適切でしょうか」
「一体……」
なんの、そんな俺の言葉を遮って彼は口にする。
俺の予想の斜め上、その男が知る筈もない単語を口にしながら。
「勇者になる為に、と言えばご理解頂けるでしょうか」
その言葉を受けて、口を開いたのは俺の隣にいた『聖女』だった。
「貴方は一体何者ですか……?」
そう、勇者という称号は聖女である彼女だけが知る物であり他の誰かが知るには彼女に直接聞くしかない。
俺の鑑定ですら見抜く事ができない事柄なのだから。
けれど、それを知っているという事は聖女から情報が露見したという可能性が一番高い。
しかし、その疑問符を見る限り知り合いという訳でも無さそうだ。
いいや、そうじゃ無くても勇者なんて言葉をこの聖女が誰かに話していたとしても、おいそれと信じれる話の類じゃない。
俺の鑑定を以てして初めて、可能性がある程度の信憑性の代物なんだから。
それを知っていて、尚且つ確信を持っている。
本当に、何者だこいつ……
「例えば、勇者の称号の獲得条件は人類の最高レベル保持者だそうですね」
「……何故知っているのかと問うているのですよ」
「そんな事は些事じゃないですか。私が言いたいのは、もし最高レベル保持者が死亡した場合第二位が繰り上がりで勇者になる事が可能なのではないのか、という質問です」
俺は刀を抜き放つ。
今の言葉は完全な敵対行為だ。
「だったらまどろっこしい事やってんじゃねぇ。最初から俺を狙って来いよ?」
最高レベル保持者を殺し、そして自分が最高レベルになる。
それがお前の目的か。
「同感だ」
俺が刀を抜き放つと同時に、一本の魔剣を抜き放ったロランスが前に出て来る。
「はぁ、例えば貴方を仮死状態にして実験してみるとか、平和的な方法を模索するつもりもあったのですが…… いいえ確かに、それが可能という根拠も何もない以上、結局殺すしか方法は無いのかもしれませんね」
そんな言葉と同時に、朔間疑徒が手を上げると後ろに控えていた探索者たちも抜刀し始める。
「この数相手に、たった二人で勝てるつもりですか?」
後方に控える魔法系の探索者たちが、巨大な合成魔法の詠唱を開始し各近接系探索者に補助魔法を発動させる。
その一糸乱れぬ動きは、なるほど確かに地上最強ギルドと言わしめる理由が分かるという物だ。
それに、五名のSランク探索者も集結しているらしい。
「逃げないのですが? 貴方には逃げる手段がある筈だ」
恐らくゼニクルスの事を言っているのだろ。
転移を使えば確かにこの場から逃走できるし、帰還の指輪なんて代物もある。
確かに、俺と聖名守凛佳の能力でこの人数を相手にするのには無理がある。
俺は鑑定士だ。一騎当千の戦士には成れない。
彼女の聖女の力は、補助や回復に特化しており戦闘能力と呼べる物は殆ど無い。
「確認、しておこうか。お前は敵なんだな?」
彼は俺では無く、聖名守凛佳に視線を向けて言う。
「私はただ、貴方に英雄の称号など相応しくないと証明したいのですよ」
その言葉からは、今までの飄々とした物では無い確固たる意志を感じた。
「だったら次は、俺を相手に挑んで来い。関係ない人を巻き込むな」
「えぇ、何れまたお会いしましょうか」
俺は聖女の手を引いて帰還の指輪を起動させた。