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九十四話 朔間疑徒


 ――私は感謝しているのだ。

 ――君が私を助けてくれたことを、私は一生忘れない。だからこそ、私は君を絶対に見捨てない。

 ――そして、君を必ず自由にして見せる。



「さてとマスター、聖女が勇者様候補に合流したらしいぞ?」


「ついに来たか。まぁ彼がレベルを公開したのだから、この結果は容易に想像できたことだ。けれど覚醒には少なくとも一月は掛かる」


「それまでに、やるんだな?」


「あぁ、それしか方法は無いからね」


 朔間疑徒とロイドは、Sランクダンジョン『ワダツミ』の派生ダンジョンである海底神殿の最奥、蘇衣然と天空秀が一度諦めた迷宮主の扉の前に居た。

 その場にいるのは、その2人だけでは無く数十名の聖リント教会所属の探索者も共にいる。


 その中には、五名のSランク探索者も指揮官兼最高戦力として参加しているのが見受けられる。


「それで、天空秀がもたらした情報によれば、中にはAランクやBランクがうようよしてるらしいじゃねぇか」


「確かに、けれど君たちなら問題ないだろう?」


「あたりめぇだろうが」


 ロイドが両開きの少々巨大な扉に手を当て、それを思い切り開く。

 Sランク探索者の腕力によって、押し飛ばされる様に開いた扉の中にはモンスターの姿は一匹も見えなかった。


 けれど、その地面、少しだけ浸水している床を見れば幾多の魚類系モンスターの影が見えた。


 雪崩れ込む様に、探索者たちが5人のSランク探索者を筆頭に迷宮主の部屋へ入っていく。


 それを後方から悠然と眺める教祖の目は、凍える程に冷静だった。


「サクマ様、牢から出してくれてありがとうございました。それにこの魔剣も」


 先陣を切って突入したロランスが、歩い程度のモンスターを討伐して一度帰還する。

 彼は真っ直ぐに朔間疑徒へ向かって歩き、そう声を掛けた。


「いえ、君はまだ必要なので」


 歳で言えば、ロランスの方が圧倒的に上だ。

 けれど、ロランスには目の前の相手に返しきれない恩義を感じている。


「俺は貴方に救われた。必ず恩は返しますから」


 それは、牢獄から解き放ってくれた事へのお礼では無く、彼を彼たらしめる状態変化に関する礼だった。


「いいえ、貴方を救ったのは我が主君、絶対神様です。私はその言葉を伝える立場にすぎません。それは貴方が身をもって分かっているのではありませんか?」


「それは勿論。主君には絶対の信仰を、けれど貴方にはやはり大恩の感謝をしたいと思っております」


「では、素直に受け取っておくとしましょう。貴方には期待していますから」


(効果率100%。貴方は俺の最高傑作で、絶対に裏切らないと確約された存在だ。手放す訳が無いでしょう)


 朔間疑徒は、心の中でひとりごちる。

 全幅の信頼を置く部下を、(あざけ)笑うように。


「それで、突入してから30分は経ちますが、まだ終わらないのですか?」


 腕時計を眺めながら、朔間疑徒はロランスに問いかける。

 ロランスはその言葉を受けて膝を付きながら謝罪の意を述べる。


「申し訳ございません。一体だけAランクを越える強さの喋る魚人型モンスターが居まして、苦戦を強いられています。俺はその報告に参った次第で」


「なるほど、魔剣は使ってはいませんね?」


「えぇ、この剣は使用許可があるまで使う事はできません」


「分かりました。ならば、それは私が相手をしますよ」


 ダークエルフと同等のAAランク。

 もしくはワダツミの第一から第三階層に居る階層主に匹敵するSランク。

 Sランクが5人居ても手こずるレベルの相手なら、相応の強さである事は確定している。


 けれど、それでも朔間疑徒は立ち上がっていた。


「自ら戦われるのですか?」


 ロランスはその姿に疑問を感じずにはいられなかった。

 今まで教祖に戦闘能力と呼べる物は存在しないと思っていたからだ。

 戦っている所など一度も見たことが無いし、戦いに行く素振りすら無かった。


 そんな男が、自分たちでも苦戦するような相手に挑む。


 無謀と、そう思った。


「えぇ、貴方は中の探索者を引き上げなさい。私の力は他を巻き込む可能性がある」


 その自信しか伺えない表情を見て、ロランスも決める。


「畏まりました」


「面白そう!」

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