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九十三話 デメリット

「「あんたの『聖女』の力はクラスの力では無いからです()」」


 同じセリフを口にした俺と彼女は互いに笑みを浮かべる。

 彼女は俺に伝えたい事を伝えられたから。

 俺は彼女の意味不明さに笑うしかないからだ。


「そして、今日ここへ来た目的。やっとそれを話す事ができる。私は聖女と同じ『称号』の力を貴方に授ける為に貴方に会いに来たのです」


 そこから彼女は捲し立てる様に俺に目的を述べていく。


「貴方に与える称号の名は『勇者』。人類の先頭に立つべき英雄の称号です。そして与えるための条件は2つ、クラスレベルが300以上である事と、その中でレベルが最高である事。私は昨日、貴方を直接見て確定させました。条件を満たす人物は天空秀(あまそらしゅう)さん、貴方だったのです!」


 喜々として、高らかに、彼女はそう宣言する。

 それはまるで神を敬愛する信者の様で、自分の目的のためなら犠牲を止む無きとするような狂信者の様でもあった。


「勇者はあらゆるクラスの戦闘力を超越した最強の存在です。勿論、受け取って下さいますよね? それが人類がダンジョンの脅威に打ち勝つために最も必要不可欠な称号であるのですから」


 愉悦と言っても差支えの無い様な歓喜の表情を浮かべる彼女を前に、――俺は普通に引いていた。

 気持ちの悪い奴だ、と。


「嫌だ、と言ったら?」


「はい?」


 こいつは1つだけ俺に隠し事をしている。

 そして、その隠し事は俺に明確に害をなす類の話だ。


 こいつは俺を勇者にしたい。それは分かった。

 それを踏まえた上で、善悪鑑定、こいつが俺に対して抱くメリットとデメリットの比重を鑑定する。

 結果は2対1。メリット2に対してデメリット1だ。これは個数では無く、そのメリットとデメリットの大きさを彼女がどう捉えているかという話である。


 つまり、彼女は勇者という称号を俺にプレゼントするという2の効果(メリット)と引き換えにその半分に相当する何かを俺に犠牲にさせようとしている。

 という事になる。


 そんな奴の話に乗る訳が無い。


 こいつにとってそのデメリットは、勇者になるメリットに対しては半分くらいの重要度のデメリットなのかもしれないが、俺にとっては強さなんかよりもずっと大事な物なんて可能性は多分にあるのだ。

 例えば、楓の命やギルドの皆の安全が対価なら、俺は絶対に断る。


「俺の眼を誤魔化せると思うなよ? その称号を受け取る事で俺に何のデメリットがある。それを話せ、それができないのなら先へは進めない」


「……勇者は人類の英雄になるべき存在です。それを不在のまま置いておくと? 貴方の選択で人類が滅亡するかもしれないのですよ?」


 確かに、今現在迷宮都市はワダツミの第3階層攻略のための糸口すらない状況だ。

 3体の人型、そして橘さんの能力に等しい死体の軍勢。更に、幾つかのギルドが行った攻略隊に参加していた探索者が死体として支配下に置かれており、第3階層の戦力は2階層までの比ではない状態だ。


 もしも勇者が、それを蹴散らせるだけの戦力を秘めているなら受け取る価値はあるのかもしれない。


 けれど、例え勇者の性能が何であれ俺には譲れない物がある。


 もしもその方法以外では第3階層を攻略できないとしても、俺には捨てられない物がある。


「もし、俺の選択で遠くない未来に人類が滅んでも、今俺の大切な物を犠牲にするより幾分かマシだ」


「人類は何を置いてもまず、人類のために戦うべきです」


「お前に…… 俺の生き方を決められる謂れはない」


「……何を言っても無駄の様ですね」


「そんな事は無い。勇者の称号と引き換えに俺は何を失うのか、それを教えてくれるなら一考はするさ」


 唇を噛み締め、彼女は俺を睨みつける。

 悪いがそれでも何を犠牲にするのか不明な状態で、その話には乗れない。


「分かり、ました…… 今貴方にそれをお話する事はできません。なので、別の手段を取らせて下さい」


「別の手段?」


 そう言うと、彼女は勢いよく俺に頭を下げたのだ。


「私をアナライズアーツに入れてください」


「はい……?」

「面白そう!」

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで言っても話さない時点で勇者が地雷だと言ってるような物だな というかこの女自体が地雷っぽい
[一言] 何を失うかわからんが 人類の先頭に立つ時点で 少なくとも『私的な日常』は失われるだろうな
感想一覧
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