九十一話 踵を返す
探索者装備のまま、遊園地の施設内の公園に現れた白髪の若い女性。
歳は俺と同じか少し上くらいだろうか。鑑定結果は21歳。そして特筆すべき点の一つとしてレベルが挙げられる。
相手のレベルは150オーバー、Sランク探索者だ。
俺を除いたSランク探索者六名の内、聖リント教会に所属する5名は日本人ではない。
そして、彼女はその名前から恐らく日本人と予想される。そして、Sランク探索者であり日本人である人物は一人しかいない。
六人目、聖リント教会に所属しない俺以外の唯一のSランク探索者。
聖名守凛佳。
「俺に何か用事でも? 生憎と、今はプライベートなんですけど」
探索者装備フルセット、相手はいつ戦闘に入っても問題ないと言った装いだ。
俺も収納に武器くらいは入っているが、探索者用の装備に着替えている時間は無い。
「えぇ、大事です」
リオンも立ち上がり、いつでも戦える様に構える。
聖名守は、俺の顔を眺め笑みを浮かべる。
「……やはり、貴方で間違いなかった。やっと見つける事ができた」
「えっと、そろそろ何の話をしてるのか教えて欲しいんだけど……?」
俺がそう言うと、彼女はハッとしたような表情を浮かべ、勢いよく頭を下げた。
「あっ、私……! そうですよね、行き成りごめんなさい」
どうやら敵対的では無いらしい。
警戒を若干緩める。しかし、相手はフル武装だし手には黄金の槍を持っている。
まだ、完全に信用する事はできない。
しかし、俺の善悪鑑定でも敵対的という結果はできていない。
寧ろ、協力的な反応だ。
「えと、私はですね。いや、その何と説明すれば良いのか。あの貴方の中に眠るクラスではない『もう一つの力』に興味はありませんか?」
唐突に、そんな事を彼女は行ってくる。
しかし、うん全く意味が分からないというのが本音だ。
相手はSランク、冗談と見切れる相手でもない。
けどだ。どんな用事か知らないけどだ。
タイミングを考えろ。今来るか、明日じゃ駄目なのか。仕事中でも良いから、今は辞めろと言いたい。
「ごめん、明日にしてくれない?」
「いえ、早急に聞いて欲しいのです。一分でも一秒でも早く」
「いや無理だよ。というか怪しいし」
確かに善悪鑑定では善性に偏っている。
けれど、それが必ずしも俺にとってメリットになるとは限らない。
この相手が俺にとってメリットになると勝手に思っている場合もあるからだ。
弁護士事務所で騙されそうになった時に、俺はそれを嫌と言うほど斉藤さんと清水さんに言われた。
「そんな! 私は人類にとって重要な……」
「人類って……急に壮大な話だな」
多分、協力要請で第三階層の攻略とかの話では無いだろうか。
しかし、どちらにしても今は少し困る。
「相手の用事くらいは考えて行動するべきだと思うんだ。休暇中の相手に突撃するのは如何な物かと俺は思うけどな」
別に、嫌っている訳ではない。
けれど、出会い方は良いとは言えなかった。
けれど、話を聞かずに追い返すのも悪い気がする。もし何か重大な用事だったら結果的に困るのは俺な訳だし。
それに相手も相手だ。
「けれど、私には貴方に聞いてもらわなければならない話があるんです」
「分かった。でも、それは今じゃないとダメな事か?」
「……いえ。ですが早いに越した事は無いと」
「じゃあ明日でどうだ? 明日うちのギルドの事務所に来てくれ。俺も居るから」
「分かりました……失礼致しました」
聖名守凛佳は俺が調べた限り、まだこの迷宮都市にはやって来ていなかった筈だ。
それに恰好といい、この都市に来て直ぐに俺へ会いに来たとでも言うのだろうか。
しゅんとした表情のまま、トボトボと踵を返して彼女は去っていく。
「お知り合いでは、無いんですよね?」
「まぁ、顔見知りではあるかもしれないけど。相手はSランク探索者だったよ。六人目、日本唯一、いや俺も居るから二人か、そのSランク探索者の聖名守凛佳だってさ」
明日、彼女を相手にするにしてもこっちも何の準備も無しって訳にも行かないだろう。
フル装備で会いに来るような奴だし。しかし、ロランスと違って彼女のレベルは純粋な物だった。何かのバフが掛かっている訳ではない探索者。
さて、敵か味方か。判断を下すのは明日だな。
「だったら私も、明日は同席します」
「それは助かるけど、無理はしなくていいよ?」
「いえ、何か嫌な予感がするので……」
そう言って、リオンは頬を赤らめ視線を逸らした。
「面白そう!」
と思って頂けましたらブックマークと【評価】の方よろしくお願いします。
評価は画面下の【★星マーク】から可能です!
1から5までもちろん正直な気持ちで構いませんので是非。




