九十話 デートと聖女
生まれた時から、私にはたった1つの記憶があった。
見守る者、そして授ける者、それが私の役割であり生まれてきた理由であるのだと、私は最初から知っていた。
親は居ない。孤児として育ったが、孤児という表現も私には似つかわしいとは言えない。
何故なら、私に親という存在は生物的な意味で存在しないのだから。母体から出て来た訳では無く、科学的な人造人間という意味でもない。
――私は『生まれる』という事象を経験せずに最初からそこに存在していた。
私には2つの特別な異能が宿っている。
1つは、もう1つの異能の発動条件を知る異能。
1つは、それに見合う人物に対して称号を授ける異能。
それはクラスとは違う、他の誰も持たない私だけの異能だった。
私は私の存在意義を自我が芽生える前から知っていて、知恵がつくほどにその異能が本物である事を強く認識した。
何故と疑問は沢山あるが、それでもそれが疑いようのない真実である事は脳と身体が認識し、その唯一の目的を最上の目的として生きる事を私自身が許容していた。
孤児院に住んでいた頃、それを友人だった少年に話した事がある。
彼は私の話など聞く耳持たず、意味が分からないと言うだけだった。
その後、私の引き取り先が決まり学校へ通ったりと日常を謳歌している最中でもずっと、その思想だけは拭い去る事は不可能だった。
そして、ついに来る日がやって来たのだ。
私は動かねばならない。早急に、何よりも優先して。
―――
この迷宮都市という奴は、最先端技術の粋を集めて結成されただけあって娯楽施設も必要以上に揃っている。
Sランクダンジョン攻略用の拠点としての意味合い以上に、世界屈指の繁栄した都市としての側面も十分持った場所だ。
そしてだ、俺は秋渡のアドバイスに習って1人の女性をデートに誘う事にした。
「珍しいですね、しゅ……マスターがこんな所に来るなんて」
「今日は仕事じゃないからマスターじゃ無くて良いよ」
「はい……じゃあ秀君で」
「俺もリオンさんと……」
「いや、それは嫌です。いつもと同じでいいです」
「わ、分かった。じゃあリオン、今日は付き合ってくれてありがとう」
「いえ……」
遊園地、来るのは何年振りだろうか。
楓が倒れてから一緒に行くような仲の友達も居なかったから、10年とか経ってる気がする。
「それにしても、派手ですね」
「確かに、迷宮都市は全部一から設計されてるからここも気合入れて作ったんだろうな」
観覧車一つとっても巨大すぎるほど巨大である。
俺の眼に掛かれば測量も可能である。高さ154メートル。
ジェットコースターとかコーヒーカップとかもかなり凝った物が多い。
それに電動装置以外にも魔力で動く仕組みのアトラクションを導入している箇所が幾つもあるのも驚きだ。
後、何を思ったのか水族館と動物園と美術館を同時に同じ場所で開催している。
それらを一通り回ってみる事にする。
迷宮都市内でもかなり人気のある遊園地らしいが、こういう時に使うのが招待されたギルドマスター特権である。
都市長に言ったらその日に年間パスを貰えたんだから。
「なんで、私を誘ってくれたんですか?」
夕暮れが赤く輝く時間、俺とリオンは施設内にある公園の静かな場所にあるベンチに座りながらそんな話をする。
「何と言うか…… 最近、よそよそしい感じがしてて、秋渡に相談したらデートにでも誘ったらって」
「秋渡君…… あぁそういう事か……」
何かを察したような表情をしたリオンは、初めて出会った時のような奇麗な笑顔でこう言った。
「私、秀君がこの二年で少し変わったような気がしてたんです」
「そりゃ、二年も有ったら変わるよ」
実際、高速でレベルアップした影響なのか身長も伸びた。
それ以外にも変化した部分は色々ある、剣術を習得した事とかレベルに関しても。
「でも、それが怖かったんです。何か得体の分からないものになっていってる気がして」
得体が知れない。
きっとそれは、俺が頭の片隅にあった迷いに関してだ。
蘇衣然は俺に言った。ギルドマスターの役割は、自分を信じてくれる仲間を守る事だと。
けれど、俺はそんな忠告を忘れ秋渡を見過ごした。それが結果的にギルドにとってのメリットになると思ったからだ。
そんな姿を見れば、誰だって俺が間違えているのだと思う。事実間違えている。
履き違え、重症を許容した。
「でも、今の秀君は昔のままに見えます」
ずっと、彼女に助けられてきた。
最初に出会ってからずっとだ。
リオンが居なければ俺はとっくに死んでいる。リオンが居なければ俺は同じ間違いを何度も繰り返していた。
だから。
「ありがとう。君が居てくれて良かった」
「へぇっ…… はい…… どう致しまして」
頬を赤らめて、彼女は俺に小さな声でそう言った。
その瞬間だった。
『見つけた』
そんな声と同時に、1人の女性が現れる。
遊園地だと言うにも関わらず、探索者としての鎧とドレスが一体化したような装備を身に纏った白髪の女性。
「貴方が勇者か?」
そう言って、俺の眼を彼女は強く見据えていた。
「面白そう!」
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