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八十九話 見舞い


 教皇を守護する騎士ナイト

 それが俺だ。


「どうだよ? 出所した気分は」


「気分は悪くない。だが、何故俺は出てこれた」


「そりゃ、教皇様の力じゃねぇのかよ」


 ロイド・B・マルクス。

 俺と同じ、もう一人の騎士にして俺以上のレベルを持つ男。

 ただ、その力は俺と同じで教皇の意思に従った結果手にした能力だ。


 だが、それでも俺たちは人類最高、Sランク探索者と呼ばれている。


 迷宮都市にある探索者用の特別な牢から出所した俺は、上司に当たるロイドと共に車でギルドに向かっていた。


「そういう事ではない。何故俺は見捨てられなかったんだ?」


 俺など教皇にとっては駒の一つに過ぎない。

 それを態々力を使ってまで無理に出所させる必要は無い筈だ。

 けれど、事実として俺は外に出てこれている。

 まだ、俺は何かを期待されているのだろうか。


「はぁ、めんどくせぇなお前は。どうでもいいじゃねぇかそんな事。また俺の下で働けばいいだろ」


「俺は教皇の直属だ。お前の下についた覚えはない」


「あっそ、数字を見ればお前が俺の下なのは一目瞭然だと思うけどな」


「これから、教皇に会いに行くのか?」


「いいや、教皇様は忙しいらしいぜ。お前を出したのも、その忙しい理由が関係してんのかもな」


 何か、目標が明確化されたみたいな、そんな顔してたな。とロイドは語る。

 目標、地上最強ギルドを作り上げ、Sランク探索者を『量産』する力を備えるあの方にまだ目標が何かあるというのだろうか。


 いいや、関係ない。俺が出された理由がその目的に関係するのなら、俺を救い上げて下さった大恩に報いる為にも、それに全身全霊の力を注ぐだけの話だ。


「それと、貸し出してた階位の隷属(レベルスレイブ)は没収だとよ」


「仕方ない事だ。俺は失敗したんだから」


「今日はやけに大人しいじゃねぇか。いや、お前は教皇の前だといつも大人しかったな。それと失敗してねぇ、お前は威力偵察って任務を十分に果たしただんよ。だから、代わりにこれを渡せとさ」


 ロイドが取り出したのは一つの指輪だった。

 階位の隷属(レベルスレイブ)も教皇から賜った魔道具の一つであり、指輪の力だった。

 それは警官に没収され、恐らく教皇の手に戻ったのだろう。


「これは?」


「収納の指輪だよ。新しい奴だ。で、中身だが魔剣が入ってるそうだ」


「魔剣?」


「あぁ、お前の新しい剣だよ」


「そうか……分かった、俺はこれを使い一層の忠誠を示そう」


「俺に言うな。本人に会った時にでも言えばいいだろ」


「確かにな」


 他の収納の指輪も警官に没収されたので、何もはまっていない俺の指にその収納の指輪を一つはめる。


「ロランス、お前なんでそんなに教皇に従順なんだよ?」


「救われたからだ。それはお前も一緒だろう、ロイド」


「まぁ、そうだがな。だが、あの男はキナ臭すぎるぜ」


「印象などで、仕える主は変えない」


「そうだな……」




 ―――




 純白の建物の中の一室、その扉横にある札には『倉持秋渡』と名札が掛かっている。

 そして、扉の中に人物が二人。一人はベットの中で、もう一人はその横で果実の皮を剝いていた。


「大丈夫ですか、秋渡君」


「ありがとう耶散さん。三日もしないうちに退院できるらしいから心配しないで」


「ふふ、お礼を言うのは私の方だよ。あの時、私は何もしてあげられなかったのに守ってくれてありがとう」


 その言葉が聖リント教会所属のフランス出身探索者、ロランス・モローとの一戦の事であると直ぐに気付いた秋渡は取り繕う様に笑う。


「守れてないさ。結局、マスターのお陰で助かっただけだった」


「そんな事ないよ。マスターが来れたのは秋渡君のお陰だって、マスターもリオンさんも言ってたから」


「でもだよ……」


 それから、数十分ほど他愛のない話に花を咲かせた耶散は見舞いを済ませて帰って行った。


 数分すると、別の人物が現れる。


「秋渡君、少しお邪魔します」


 やって来た女性は煌めくプラチナブロンドの髪を靡かせた奇麗な女性だった。


「リオンさん、すいません迷惑かけちゃって」


「いいえ……」


 リオンは先ほどまで耶散が座っていた席に腰かけると、真っ直ぐと秋渡を見つめた。


「な、なんすか……?」


「……」


 黙ったまま、何か思いつめる様にもじもじと手遊びしている。


「果物でも食べます? 耶散さんが一杯持ってきてくれて、俺一人じゃ食べきれそうにないんすよ」


「あの、怒らないで聞いて欲しいんだけど……」


 申し訳なさそうな表情で、リオンは秋渡を見つめながらそう声を発した。


「はい……」


 何を言おうとしているのか予想は付かず、秋渡はただ頷く。


「秀君は、他人の様子を見る能力を持っていて、それであの日は秋渡君を見ていたの。それで、本当ならもっと早く助けられたの」


 リオンは静かな声で、そう話した。


「なんで、それを俺に?」


「当事者の君が知らないのは良くないと思ったから」


「この事、マスターは?」


「言ってないよ」


「じゃあ、そのまま言わないで下さい。それに関係ないっすから」


「関係ない? そのせいで、そんな大怪我を負ったのに?」


「探索者がダンジョン内で傷を負うのはどんな理由でも自己責任じゃないっすか。そもそも、マスターが居なきゃ乗り切れてない時点で、俺の実力不足は」


「それで、納得できるの?」


 ギルドマスターとして仲間を囮にするような判断をした天空秀を、受け入れる事ができるのかと、リオンはそう問いかける。


「できますよ。もっと強くなるっす! マスターがそんな小手先に頼る必要が無いくらい」


「そっか…… 強いなぁ……」


「いえ、まだまだっすよ!」


「分かったわ。力になれる事があったら何でも言って、私もこの二年で強くなったから色々教えられると思うし」


「お、教える……。いや、何でもないっす。何かあったら頼る事にするっす」


 一瞬顔を赤らめた秋渡だったが、直ぐに顔を振り了承の言葉を口にした。


(マスターの彼女に手なんか出したらマジで殺される……)


 そんな考えを知らないリオンは立ち上がり、秋渡の頭に手が乗せられる。


「早く良くなるんだよ」


「うううっすす!!」


 恋愛感情以前に、自分のギルドのマスターにこの事が知られたらと妄想して恐怖を覚えながら秋渡は返事をする。


「うっすす?」


 変なの、と笑いながら見舞いの品を置いてリオンは帰って行った。


「マジ、心臓に悪い…… てか耶散に見られても終わってたな」


 密かに想いを寄せる女性が居る秋渡は、その彼女の事を思い出しもう一度身体を振るわせた。



 更にまた、病室に見舞い人が現れる。


「秋渡、大丈夫か?」


「ま! マスター!?」


「なんだよ、ママスターって。俺はママじゃないぞ?」


「あ、いやどうしてここに?」


「見舞いに決まってるだろ? まぁ、それと謝りに来たんだ」


「え?」


「すまん、お前の怪我は俺の責任なんだ」


 そう言って、秀はリオンがした説明と全く同じ内容の話を秋渡にする。

 ロランスとの戦いの際に同じ様な内容の事を言われた気がするが、記憶が混濁していた秋渡にとっては一度目の様な会話だった。

 けれど、それを秀から聞く事で思い出す。


「あの時も言ってたっすよね。けど、気にしてないっすよ」


「そう言ってもらえると助かるよ」


 心底申し訳なさそうに、秀は秋渡に頭を下げていた。

 それを見た秋渡は、


(この人に無理をさせない様に、俺ももっと強くならないとな……)


 そう決心する。


「それともう一つ相談なんだけど」


「はい?」


「リオンが最近冷たい様な感じがするんだけど、なんか心当たりあるか?」


 そう問いかけられた秋渡は、その冷たさの原因が何なのかすぐに見当がついた。


(絶対さっきの話を俺に言うべきかとか、マスターに不信感とかそういう話じゃないっすか……)


「あ、あぁ……。いやそうっすね、明日にでもなれば直ってるんじゃないですかね」


「そうだろうか……」


「まぁ、もしあれならデートにでも誘ったらいいんじゃないですか?」


「デートか……。うん、考えてみるよ」


(めっちゃ落ち込んでるし。こういう時だけ自信無いよな……)


「それじゃあ長居しても悪いし、そろそろ帰るよ。本当にすまなかったな。今後はこういう方法は取らないと誓うよ」


「はい、ありがとうございました」


 そう言って秀も見舞いの品を置いて、帰って行った。


 秋渡は誰も居なくなった部屋で、見舞い品が置かれた机を眺める。

 そこに有るのは山のように積まれた果物。


「なんで全員食い物で果物なんだよ。三日でこんなに食える訳……」


 秋渡は本来の日程より一日遅く退院した理由は、彼と彼のお腹だけが知るだろう。


「うえ、吐きそう……」

「面白そう!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 鑑定眼でも女心はわからない、見抜けない 全てを見抜かれると恐れる人にはこの情けないマスターの姿を見せるといいよ 人間味って共感しやすいもんね
[一言] 律儀な奴めw
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