八十話 成長
兵霊による視界共有。そして遠距離を見渡せる鷹眼。
更に、【印視】という新たなスキルによるマークをつけた相手への視界接続。
当然、対象は倉持秋渡であり、兵霊にも秋渡を監視させていた。
「私は余り褒められた方法では無いと思いますよ」
「けど、これが一番効率が良いのも分かるだろ?」
予め、ワダツミの詳細な特性を調べていた。
俺は特性上、ダンジョン内でモンスターを倒すメリットが余りない。
何もせずとも勝手にレベルアップするのだから。
だからまずは第一階層を調べつくした。
そして、分かった事はこの世界の結界は円柱状になっているという事だった。
島を囲うように円柱の結界が展開されており、ある一定の海域以降には進めない様になっている。
ただ、これはつまり下と上には行けるという事だった。
海中と空域の探索。
第三階層を突破する手立てが思いつかなかった俺は、そちらから先に探索する事とした。
そこで見つけたのが『釣人』というクラスを持った少年、トーマだった。
ブラジルで金に困っている所を姉と一緒に雇用した。
姉の方は総合ギルドで受付嬢として働いている。
そんなトーマに秋渡と耶散の二人を付けて釣りを始めさせた。
そして、一ヵ月ほど経った頃、敵が姿を現した。
「行きましょうマスター。今行けば助けられる」
ギルドの一室で、俺はリオンさんとその様子を見ていた。
兵霊と印視の視界共有だ。
そこには秋渡が何とかトーマたちを逃がそうとする様子が見えていた。
勝てないと分かっている相手に必死の抵抗を試みる。その姿は子供染みていたが、間違えては居なかった。
「待って、助けようと思えばいつでも助けられる。ゼニクルスを送還して再召喚し、転移で向かえば数秒だ」
俺は秋渡の様子を伝えながら、それを説明する。
「だから、もう少し相手の事を知りたい」
こいつが誰か、それは視界共有越しの鑑定で既に把握している。
けれど、こいつが何の目的でこんな事をしているのか、それが知りたかった。
何も知らず、自分の目に慢心し、そして失敗するのは懲り懲りだ。
「危険すぎます」
「……」
「マスター、私は先に行きます」
俺がゼニクルスを戻さないのならと、彼女はギルドから飛び出して行ってしまった。
「全く、敵わないな……」
そう呟いた瞬間だった。
秋渡以外のメンバーが別の場所へ一瞬で移動した。
そして、秋渡は相手を煽るような言葉をかける。
秋渡は俺が見ている事を知らない。そして転移阻害のせいで、ゼニクルスが俺やリオンを呼べないと思っている。
だから、釣り上げた亀の甲羅の転移能力で転移したのだ。
では、何故転移阻害の結界内で亀の甲羅の結界は発動したのか。
アレは真下への転移だからだろう。
相手の発動している転移阻害結界は、半球状か下一面が抜けた立方体の様な形状をしていると推測される。
その結界に触れるような線での転移が不可能になるという代物だ。
しかし、真下へ転移する場合半球状の結界では役割を果たしきれない。
秋渡が知っていたかは知らないが、結果的に上手くいっているのは事実だ。
そして、深海から上斜め方向への転移であれば結界に阻まれる事なく転移ができる。
ゼニクルスなら、数秒もせずにここにやって来るだろう。
「ご主人、ピンチっちゅー奴でっしゃ!」
どうやら、秋渡の作戦は上手くいったようだ。
だったら、ここで動かない訳には行かないだろう。
「フルチャージだ。俺を連れていけ」
「了解した、我が主よ」
人型に変化したゼニクルスが、最大速度の転移魔法で俺を運ぶ。
行く場所は海の底、ダンジョン内に設置された第二ダンジョン『海底神殿』。
「――良くやった。そしてすまなかったな」
「秀さん!」
「マスター、秋渡が!」
トーマと耶散が涙を浮かべながら、俺に訴える。
「あぁ、分かってる。ゼニクルス二人を守れ。俺が行く」
「畏まりました」
そして、ここにある転移装置を使用して秋渡が居る亀の甲羅の座標へ転移する。
ダンジョンの発見、そしてトーマの守護、秋渡も耶散も十分な成果を出してくれた。
それに答えずして、マスター足りえるか。
「――俺の部下に何してくれてんだよ?」
情報はもういい。
俺には仲間の期待に応える義務があり、それは何よりも優先されるべきギルドマスターの仕事だからだ。
「面白そう!」
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