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七十六話 火炎と治癒の探索者の奇妙な依頼


 迷宮都市総合ギルド本部。

 迷宮都市の探索者とギルドの全てを統括し管理、補助を行う国営施設、それが総合ギルドという物だった。

 しかし、ここでのそれは少しだけ元来の物とは異なる。

 国営だった総合ギルドはこの都市には存在せず、各国から独立した組織となっていて言うなれば一つの『国』としての側面を持った機関となっている。


 勿論、国際連合やアジア太平洋会議の管理下ではあるが、迷宮都市総合ギルドの代表である蘇衣然は下手な途上国よりも上位の権限を持っていると言って差支えは無い。


 そんな総合ギルド大広間、数十個ある探索者用の受付の一つに一組の男女が居た。


「ワダツミの入場許可が欲しいんですけど」


「畏まりました。ギルドカードの提出をお願いします」


 国籍は分からない褐色肌の女性職員が、丁寧な言葉遣いで対応する。

 ブラジル出身の受付嬢で、勿論日本語など扱えないが翻訳の魔道具の効果はその言葉に込められた感情を的確にその人物の知る言語に翻訳する。

 心を繋げる魔道具と言っても差し支えないその道具の効果は絶大で、今ではこの都市に居る人間の殆どがその魔道具を使用している。これによる様々な国の探索者同士のコミュニケーションが円滑に進んでいるのだ。


「はい」


「どうぞ」


「倉持秋渡様、浜村耶散様でございますね。Bランク二名での探索ですか……」


 ギルドカードと呼ばれる探索者証明証にはその人物のパーソナルデータと共に探索者としての実績が記録されている。

 カード自体に何かが掛かれている訳では無く、カード事に振り分けられた固有のIDによってクラウドに保存された探索者データを呼び出す事ができる。

 PCの画面を覗き込み、それを確認した受付嬢の顔が曇る。


 ワダツミ第一階層はBランクモンスターが多数出没する。

 CランクやDランクモンスターが居ない訳では無いが、それでもBランク二名での探索は安全とは言い難いのが現実だ。

 受付嬢にはそのメンバーでの探索が適性かどうか判断する仕事がある。


 けれど、探索者として彼らのデータを見た彼女は探索許可を降ろす事になる。


「第一階層の適性信用度は越えていますね」


 この都市では探索者ランクの他に『信用度』という探索者を計る指針が存在する。

 これは実際にワダツミというダンジョンに対する適性を可視化した数値である。

 判断基準は、ワダツミから帰還回数、討伐モンスターのランクや数、持ち帰った素材の量、など様々だがそれが基準をクリアしていれば例えBランク二名のチームだったとしても探索は許可される。


「探索者ランクBで第一階層の適性値がAですか、素晴らしいですね」


 この都市には多くの探索者が集まるが、その殆どが上級探索者でありBランク探索者なんて珍しくはない。

 けれど、第一階層の適性値がA以上のBランク探索者となると数えるほどしかいないだろう。

 故に、二人の実績欄は素晴らしいと受付嬢は語った。適性値Aとは、つまり彼らが何度もこのワダツミの探索に成功し、莫大な利益を迷宮都市に齎しているという証明でもあるからだ。


「いや全然、俺たちなんてまだまだっすよ」


 秋渡が頭を掻きながら満足気に否定の言葉を発する。


「すぐ調子に乗る」


 それを後目に見ていた耶散が肘で秋渡の横腹を刺す。


「うぐ……」


 ヒーラーである耶散の能力値で秋渡にダメージを与えるのは中々難しい。

 だから本気でやった。

 かなり痛かった様だ。


「それではお二人の入場許可は出しておきましたのでゲートまでお進みください」


「「ありがとうございます」」


 二人は受付を後にして迷宮都市の完全な中心部分、ダンジョンゲートが存在する場所へ続く通路へ入った。

 空中に固定されたガラス張りの通路の向こうには、今も海中部分に空いた穴が写っている。

 まるで全方位滝に囲まれた空間の、その中心部分に浮遊するダンジョンゲートがあった。


 通路はそこへ向かっている。


 ダンジョンゲートを囲うように作られたその部屋は、滝を突き抜けて海中にも進出している。

 更にゲートの存在する空間は野球ができそうなグラウンド程広く、何人もの上位探索者がゲートの警護を行っている。

 これは万が一のスタンピードの対策だ。探索者が交戦可能な空間の作成。更に、ダンジョンから産出された鉱物を使い強化された強固な外壁。

 勿論、そんな事でこのダンジョンのスタンピードを鎮圧できるとは誰も思っていない。ここも未だ増築中のエリアになる。


 アナライズアーツに所属する二人の探索者はその何度目になるかも分からないそのゲートに飛び込んだ。


「何度入っても慣れないよね」


「だね。行き成り草原だもんな」


 ダンジョンに入った二人の目に陽が差した。

 ダンジョン内であるにも関わらず太陽が存在し、きっちり昼夜も存在する。

 けれど、一定空間内から外に出る事はできず、島を出て海を渡ろうとすると透明な謎の壁に阻まれるのだ。


「それにしても、マスターの言う事はいつも意味不明だよな」


「まぁ、マスターと私たちじゃ見えてる情報量が違い過ぎるから仕方ないですよ」


「そうだな。あの人を信じて付いて来て、それで大体上手くいってるし」


「二年半前のあれで思う所があったんですかね」


「だろうな……。けど、今日の命令はそれでも意味不明だよ」


「ですね……」


 ――レベル5の子供を連れて、第一階層の海へ向かえだなんて。


 その命令に従うべく、二人が海岸に到着した瞬間だった。


「お届けに上がりやした! それと坊ちゃん嬢ちゃんの護衛も任せられてんで、本日はよろしゅうお願いしますぅ」


 ゼニクルスが転移でその場所へ現れた。

 まだ小学生ほどの小さな男の子を連れて。


「面白そう!」

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