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七十話 君だけが子供だった


「天空君……僕を燃やせばいい、死体が残らない位粉々に」


 死に体の身体を起こし、橘さんは俺に向けてそう言った。


「何言ってるんですか……そんな事……」


 自分を殺せと言うその言葉に、俺は何を言っていいか分からなかった。

 俺が今からやろうと思った事と真逆の事だったから。


「――良いアイデアだわ」


「うむ、懸念材料はそれを提示したのが本人であるという点だが」


「アナライズアーツの【鑑定】があればそれも問題ないですね」


 三人の探索者がそう言った。

 中国の蘇衣然、インドのルドラ、韓国のミョン・シア。

 その全員が、それに賛同するような会話をしている。


「ちょっと待って下さい。俺が説得できたら、捕えるだけでいいって話だった筈です」


「それは、君が勝手にそう思っていただけよ。迷宮都市の委員会もアジア太平洋会議も、私たちも、最初からずっとこの男を殺す予定だった」


 蘇衣然の言葉に俺は何も言い返せなかった。

 俺が勝手にそう思っていただけ。この、誰も味方の居ない状況でこれほどまで正確な答えも無いだろう。

 海外ギルドどころか、日本の黒峰さんや千宮司さんも納得している風だった。


「そもそも、捕えてどこに幽閉するのかしら。深海? 宇宙? ダンジョン? どれも無謀でコストが掛かる。必要のない人材に、それほどまでの資金を誰が出すの? そこまでしてそんな危険人物を生かしておく理由は何?」


「橘さんは目的がどうあれ、世界最強の力を持っている。それを殺すのは余りにも……」


「その力が人間に向いたから、我々は今こうしてここに居るのよ」


「でも……そんなの……」


 言葉を失い。

 膝を付き。

 眼を呪う。

 俺がこの眼を持って居なければ、橘さんの人生は違っていたのかもしれない。


「あのさぁ、何時まで無視してるのかしら?」


「ゼニクルス、全員を安全圏まで転移させろ」


 ゼニクルスが俺の肩に触れると、一瞬で景色が変わった。

 そこに次々と皆が転移してくる。


「主、この場所がギリギリです。魔力が足りません」


 ゼニクルスが消えて行く。

 転移魔法は決してコスパの良い魔法では無い。

 それを使い過ぎた影響だ。再召喚時間は倒されたときと同じだけ必要になる。

 もうゼニクルスには頼れない。


 ゼニクルスが連れて来てくれた場所は第三階層の橘さんと人型が戦っていたのを見ていた場所だ。

 安全という訳では無いが、時間は稼げる。


「アナライズアーツギルドマスター、念話で撤退命令を出しなさい」


 蘇衣然の言葉通りに、俺は念話を使って全ての探索者に撤退の指示を出した。


「では、敵人型モンスターに橘修柵の死体を利用されない様火葬します」


 蘇衣然は魔石武器である杖を取り出し構えた。


「橘修柵、最後に言い残す事はありますか?」


 非情に、無情に、淡々と物事が決まり進んでいく。

 そこには、俺の望みも意思も介在し無かった。


 驕りがあったのだろう。


 なんでもできるなんて考えていた訳じゃない。

 でも、ある程度は熟せると思っていた。


 しかし全くそんな事は無く、今回のクエストはそんな程度の話じゃなった。


「天空君と少し二人で話したい」


 弱々しい声で、橘さんはそう呟く。


「そんな時間はないわ」


 キッパリと、彼女はそれを切って捨てる。


 あぁきっと、その姿こそが探索者でありギルドマスターなのだろう。

 なんと無く分かった気がする。


「もう、何も無いのなら……」


 杖に炎が灯る。


「お願いします。俺からも少しだけ話させて下さい」


 でも、ここで何も話せず橘さんを死なせたら後悔する気がした。

 だから、俺は頭を下げる。


「ダメよ」


 一歩、橘さんに彼女は近づく。


 その瞬間、行く先を数本の武器が拒む様に差し出された。


「悪いけど、彼には恩があるの」


「私も、秀君には大恩がありますから」


「パープルミストもだ」


「こちらのギルドマスターの失礼はお詫びする。しかし、この御仁の望みを叶える事こそが拙者の生業であるからして」


「時間が無いなら、俺たちが稼いでやるよ」


 黒峰さんが、リオンさんが、セブンさんが、玲十郎が、蘇衣然の進もうとした道を各々の武器で塞いだ。

 そして、千宮司剣が俺の肩に手を置きそう言い放った。


「良い、仲間を持った物ですね……」


 恨めし気に、蘇衣然は俺を睨んだ。


「いいでしょう。しかし五分です、時間が稼げるのなら稼ぎなさい。その間の会話を許可します。ですが、私も同席します。もしもこの男が再起した場合、そしてあの人型が抜けて来た場合、即座に灰にします」


「約束です、もし破ったら……」


「貴方達を敵に回すのは得策とは言えませんから、そんな事はしませんよ」


「感謝します」


 リオンさんは綺麗に頭を下げて、踵を返し反対方向を見た。

 そこから、熊の様なモンスターの肩に乗って高速で移動してきている人型モンスターの姿が見えた。


 それを見て、六人のAランク探索者が迎撃に撃って出た。


「私も行こうか」


「私も行ってきます」


 インドと韓国のギルドマスターも出撃していく。

 その場に残ったのは俺と橘さんと蘇衣然の三人だけだった。

「面白そう!」

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[気になる点] 主人公はまだまだ若いということですね…
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