六十六話 僕が間違っていると君が証明してくれよ
「僕は、もしも君が僕ならどうしたのか知りたいんだよ」
瞬間的に橘さんのスキルが発動し、周りに配置された幾百のゾンビに命令が下る。
その内容は定かではないが、攻勢に転じた事は間違いないだろう。
それを見てリオンさんが前へ出た。
「私は貴方の事を知りませんが、秀君は貴方を助けようとしていましたよ」
「そうか。だったら助けて欲しい物だね」
召喚魔法が発動する。
現れたのは炎の神、炎神カヅチ。
「それは、僕とは少し相性が悪いね」
橘さんもスキルを発動する。
召喚魔法とは違う、どちらかと言えば俺の収納に近いスキル。
使役した死体や機械を収納しておくスキルだ。
そこから現れたのは一体の人型モンスター。
「そいつはスタンピードの時の……!」
「遅いよ天空君」
水の刃を生成した人型モンスターが、炎神を一閃で両断した。
「降霊召喚」
すぐさま魔石剣と自身の身体に神気を宿すが、水使いのモンスターはかなりの速度でリオンさんへ迫った。
「生前のモンスターと、死体を操ったモンスターでは後者の方が能力が高い。理由は君の目なら分かるのかな」
痛覚無視、魔力供給、死体吸収。
生前には無かった力が幾つも憑いている。
単体戦力は純粋な魔力量だけで見ればダークエルフ以上、リオンさんだけで相手をできる存在じゃない。
「くっ……!」
同じ神気を宿した武器どうし。
けれど、その内包量は圧倒的に橘さんの使役する人型モンスターの方が上だ。
「橘さん! 俺は、貴方に伝えたい事があるんです。お願いだから聞いて下さい!」
「何かな?」
「俺の鑑定には橘さんが今後獲得するスキルがある程度見えます。でも、そこに橘さんが失った人の意識を取り戻させる術は存在しません」
「それは、嘘かもしれない。いや分かっている、君は僕に嘘を吐かない。けれど、僕は嘘だと思うしかないんだ。もう取り返しは着かなくて、僕が望む僕が必要とする力か方法が見つかるまで、僕はこの道を進み続けるしかない。それこそ、エリクサーを探す君の様に」
「俺が協力します。俺が見つけ出します。罪は償わなくちゃいけないけど、悪い様にはしないと約束しますから」
「なぁ、君はどれだけの歳月を待って居られる? 一年? 十年? それとも何十年もか? いつだ、それはいつ叶う。僕とあいつの時間をどれだけ無駄にしたらいい」
「……それはでも、このダンジョンにその答えがあるとは限らないじゃ無いですか」
「けど、ここ以外には無かったんだ。だから僕はここに居る。ここに無ければ、まだ探していない場所をしらみつぶしにしていくだけだ。それこそ、僕はあいつのためなら地獄にだって行ってやる」
「橘さん! お願いです、俺の……俺と一緒に来てください!」
「なら、証明してくれ。君は大切な人を捨てられるのか?」
橘さんがリオンさんと撃ち会うモンスターへ指令を送った。
その瞬間、モンスターは魔力を高め即座に詠唱を完了させる。
「ウォォォオオオ!」
その瞬間、リオンさんの右腕が捕まれ、その部分が爆発した。
「うぅっ……!?」
何かが空中を飛び地面へ落ちる。
それは、リオンさんの手だった。
手首と肘の間の部分から、爆発によって千切れている。
「あぁぁぁ……!」
腕を抱え、リオンさんが膝を付いた。
それだけじゃない。
傷口から泥の様な何かが侵入していっているのが分かる。
呪いの塊とでもいうべき物質。あらゆる不調を招く、人体にとって毒以外の何物でもない何か。
それがリオンさんの体内へ進入していく。
「今、彼女の中に入ったのは死体から抽出した呪いだ。放っておけばそうだね、5分とせずに彼女は死ぬだろう。天空君が唯一信用して、たった一人連れて来た仲間だ。相当な信頼関係を持っているのだろう、死なせたくなんて無い筈だ。だから助ける方法もある。さぁ天空君、君にプレゼントだ。好きな様に使って欲しい。どちらを選ぶも君の自由だ」
そう言って、橘さんは黄金色の小瓶を俺の足元まで転がした。
鑑定などせずとも分かった。
その薬品の名は神の薬品、エリクサー。
それは俺がずっと求めていた希望の薬だった。
「五分? 橘さん考えが甘いんじゃないですか。それだけあるなら、ヒーラーを含めた追加の探索者たちが転移してきますよ」
「まぁ、そのヒーラーに僕の呪いが治せるとも思えないけど、もしもって事もあるだろうね。だからこうしよう」
更に、橘さんの収納空間から人型モンスターが出現する。
一体目は水の精霊神というモンスターだった。
二体目は土の精霊神というモンスターだった。
「ウォォォ!」
ドワーフは、力を発動させる。
そのスキルは結界術。
神気を纏った結界を張る事で、結界間を跨ぐような移動を完全に阻害する結界だった。
「これで、邪魔は入らない。僕に示してくれ、最愛の人のために誰も犠牲にするつもりは無いのかを」