六十四話 接近
Aランクモンスターですら、今の俺たちの戦力なら難なく突破できる相手になった。
百人規模で囲んで倒すと言う戦法はモンスターからすれば卑怯な戦術かもしれないが、矜持で探索者は務まらないと俺は知っている。
このワダツミでは、Aランクモンスターは隊長的な立ち位置で出現する。
それを捌くのは骨が折れるが、俺の『空立』と『鷹眼』があればかなりの距離の敵も把握し先手を取られると言う事は起こらない。
ワダツミ侵入から九日目、第三階層で俺たちはついに目的のモンスターに出会った。
―――
ミスリルゴーレム(操縦)
ランクA
魔力ランクD
身体ランクAA
スキル【魔力掌打】【鉱物吸収】
―――
所々身体の砕けたそのゴーレムは橘さんが操縦中のモンスターだった。
それこそ、この階層に橘さんが居るという証だろう。
俺たちが橘さんを追いかけている理由は、橘さんがもしもこのダンジョンで下へ下へ進み地上の探索者では対処のできない脅威になる可能性があるからだ。
時間が経てば経つほど橘さんのレベルは上がって行く、それを早期に止める必要があると判断した結果だ。
ミスリルゴーレムは生命力以外は生前と殆ど同じだったので炎と風で簡単に倒す事ができたが、溶けても動くその姿は本当にゾンビの様だった。
「橘さんがこの階層に居ますね」
「でしょうね。けど、橘さん? 随分フレンドリーな呼び名じゃない」
蘇衣然が俺にそう問いただす様に聞いて来た。
他の国の人間も気になっている様子だ。
「一年ほど前に後輩探索者として橘さんに色々教わってたんですよ」
「それでは、身内の様な物では無いか」
「流石にそんな人間に指揮権をほぼ任せるのは……」
まぁ、それが普通の反応だよな。
「分かりました。じゃあこうしましょう、橘さんがこの階層に居ると分かったんですから俺は指揮権を譲渡します。代わりに、橘さんを見つけた場合最初に俺に話をさせてください。勿論、会話のできる状況だったらで構いません」
「何を話すつもりかね」
インドの代表がそう聞いてくるが、俺は黙る。
「俺のスキルに関する事です。まだ話せません」
「なんだそれは。貴様が寝返るという腹積もりの可能性も存在するのだぞ!」
怒鳴る様にインドの探索者が俺に言うが、言い返す言葉もない。
けれど、俺を庇う様に声を上げてくれた人も居た。
「それは無いでしょう」
「そうだぜ。人類を裏切る奴が、生産職の有用性を示すような動画なんて出すかよ。鑑定情報に関してもそうだ。独占してないのが、何より本気でこのダンジョンを攻略しようとしている証拠だろう」
「それが問題なのだ。件の首謀者の力があればこのダンジョンを攻略可能とこいつの目が判断した時、貴様等はどう責任を取るつもりだ」
高圧的な態度だが、言っている事は尤もだ。
俺も逆の立場ならそう判断するかもしれない。
「だとしても、指揮権がこっちにあるなら俺たちの見てる時にしか接触しないようにすればいい。そもそも、韓国がそっちの肩を持っても二対三だ」
「貴様等大国はそれで良いかもしれないが、我々はこのダンジョンの資源を貴様等に渡す訳には行かぬのだ」
「それを俺たちに言ってどうする? そもそも、俺たちは人類のためにこのダンジョンを攻略しようと集まった仲だと思ってたけどな?」
セブンさんとインドのマスターが睨み合う。
セブンさんはパープルミストのギルドマスターという訳ではないが、ダンジョン内に限りそれと等しい権限を与えられている。
だから、いま彼らは対等だ。
しかし、この状況は良くないな。
「止めなさい。彼の行動は私が監視する。それでいいかしら?」
「では、私も監視役に加わろう。この三人をいかなる状況下でも同部隊に所属させる、それで納得しよう」
「分かったわ。韓国もそれでいい?」
「はい。私は問題ありません」
「すまなかったな天空秀、裏切り者などと決めつけた発言をしてしまった。監視はするが、それが君が潔白だと証明するためだと理解して欲しい」
インドの探索者がそう言って俺に頭を下げた。
思ったよりもギルドマスターとしてしっかりしている人物の様だと見直した。
「いえ、俺が逆の立場なら疑いますから」
「感謝しよう」
そんな会話の数時間後、俺たちは操縦中のモンスターが多数存在している恐らくは橘さんが率いるモンスターの集団を発見した。