六十一話 大規模探索隊
ワダツミの内部が広大な敷地を持っているという情報は、大分前から分かっていた。
先遣隊が何度も調査しているからだ。
しかし、発生から数か月経っているにも関わらず第一階層の地形すら全ての情報が集まらないほど巨大なダンジョンはここが世界初だろう。
ただ、全貌が把握できていないのは第一階層からBランクのモンスターが発生するせいでもある。
これは、橘さんにとって凡そ障害とはなり得ないだろう。
本当に倒したモンスターを使役できるのなら、負ける要素が無い。
それに探索能力という点でもテイマーに近い性能を持つ操縦士の力があれば、遅くとも三日。
いや、数によっては一日程度でマッピングを終わらせる可能性すらある。
だからこその大規模探索隊だ。
Aランク探索者が10名以上。
更に、BランクとCランクの探索者が百と少し。
恐らく、人類が行った探索作戦の中で最も大規模な探索隊だ。
そもそも、この人数が同時に探索できる広さのダンジョンなど無かったのだから。
それに太平洋の真ん中にダンジョンがあると言うのも重要だ。
もし、どこかの国の国土だったなら、これほどのギルドが集まる事は無かっただろう。
日本、アメリカ、韓国、インド、中国。
この大国が中心となり、今回の作戦は実行される。
これらはアジア太平洋グループの加盟国で最もAランクギルドが多い国四つ。
そして、アメリカは橘さんを管理しきれなかった責任という名目で参加しているらしい。
ただ、Sランクダンジョンの内容を把握したいというのはどこの国も一緒だ。
この作戦に参加するのが、最も安全に内部を探索できるのだから。
ただ、迷宮都市に着いたからと直ぐに内部への探索を始める事はできない。
物資の到着を待つ必要がある。ダンジョンが広大であり、探索隊の人数が多いという事はそれだけ消費される物資も多いという事だ。
大人数の利点は探索の効率化だが、食料や武器のメンテナンスはその人数が増えるほど必要量も増える。
だから紅蓮も連れて来た。
ここにいる探索者の大半は魔石武器を持っている。
つまり、紅蓮が最もメンテナンスに相応しい。
そして俺の『収納』のスキルだ。これほど大群指揮に優れる能力も無いだろう。
食料、予備の武器や防具、ダークエルフの時の様な作戦を行うための近代兵器。
荷物は幾らあっても足りると言う事は無い。
何日探索するかも定かではないのだ。
補給物資の運搬の時間を利用し、食事会が開かれた。
探索者同士の顔合わせのためだ。
初対面の人間も多いが、明日から肩を並べ背中を預ける人間なのだから。
「よろしく日本の探索者さん」
そう声を掛けて来たのは、中国の女性探索者だ。
まだ若い見た目だが、これでもAランクギルドのマスターであり現役のAランク探索者だ。
名を『蘇・衣然』。
回復系の探索者らしい。
「よろしくお願いします。アナライズアーツの天空秀です」
「知ってるわ。有名だもの」
そう言って、彼女は俺の手を握った。
「明日はよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
彼女が離れていくと、また次の探索者が挨拶に来た。
それを繰り返す事何十回。
なんか偉い人になった気分だ。
「大変そうね天空君」
黒峰さんがそう俺に話しかけて来る。
知らない人ばかりで緊張していたので知っている人が話しかけてくれて有難い。
「あぁ、なんで皆俺に挨拶しに来るんだと思います?」
「そりゃ、指揮を取るのが天空君になるからよ」
「え、なんでです?」
「能力的に? 探索者って全員前線なのよ、その中でアタッカーとかヒーラーがあるだけでね。だから一番後ろで全体に指示を出すのはきっと貴方よ」
「俺にできますかね?」
「寧ろ、それ以上の事が何かできるの?」
確かに、俺がAランク探索者と同等の戦闘力を発揮するというのは無理がある。
だからって補給要員で終わるつもりもない。
「確かに、頑張ります」
「その意気よ。頑張って」
早く、橘さんに会って伝えなければならない。
俺に見えている物を。
「面白そう!」
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