五十八話 迷宮都市上陸
ジョンさんと話した三日後の話だった。
アジア太平洋会議によって、Sランクダンジョンへの侵入者が現れた事が明かされ、そして世界中のギルドがその捕縛を依頼する事が明言された。
ネクロマンサー、橘修柵がその犯人である事は既に裏が取れているのでやはり俺の予感は当たったようだ。
「それで、まさか普通にうちにも参加要請が届くとは」
武闘派ではない、という理由で参加を見送られるかとも思ったが、どうやらアナライズアーツの評価は俺が思っていたよりも高いらしい。
依頼は受けるも受けないのも各ギルドの判断に任せられる。
ただ、成功すると莫大な報酬や所属国からの信用、今回の場合はアジア太平洋会議での信用が上がるため、参加するメリットは多い。
しかし、そんな理由が無くても俺は参加する事に決めている。
事の真相を皆に話し、うちのギルドから出すメンバーを決定する。
第一チームと第二チーム全員と、事務作業をする人間も必要との事なので清水さん。
動画投稿は少し滞るかもしれないが、もう未鑑定のモンスターもかなり少なくなって来たのでどちらにせよだ。
それに第二チームの人たちはSランクダンジョンへ入るのが目的で、俺のギルドに入ってるから連れて行かないと文句もでそうだ。
移動方法は軍艦だ。
日本にも殆ど使っていないが何隻か軍艦がある。それを使って日本の探索者は迷宮都市の建設予定地まで移動する。
他の国のギルドも各国の船で移動している。
まだ、迷宮都市には航空路が存在しないため船での移動だ。
迷宮都市は、まだそこまで建物は無いが広さはかなりの物だった。
襲撃の影響か、少し崩れている所はあるがそれでも奇麗な物だった。
甲板と言っていいのか、地面は鉄でできている。
ここから、土や草木を植えるのだろう。
その中心には、ダンジョンの入り口である渦巻があるが、ダンジョンの入り口はその中心部にある。
それだと、身投げしないとダンジョンに入れず、出て来た拍子に死にかねないので、そこまでのリフトや足場が既に建設されている。
それを使って俺たちはダンジョンに入るのだ。
仮に作られたテントで各ギルドのメンバーが一休みしている間に、俺を含めたギルドマスターは一つだけ建てられた屋敷の様な場所へ向かう。
ここで、作戦会議をするらしい。
「お久しぶり、天空君」
屋敷に向かう途中で黒峰さんと合流する。
どうやら、鮮血の偶像も参加するらしい。
挨拶も早々に、黒峰さんは険しい表情を浮かべた。
「それにしても、探索者一人のためにこれだけのギルドが集められるなんてどういう事なのかしら」
感覚的な話だが、経験値の分配率はどれだけ貢献しているかによって変化する。
恐らくは、橘さんの経験値分配率は100%。つまり、鑑定士や鍛冶師とは比べ物にならない経験値効率を誇っていると思われる。
現時点のレベルで俺を越えているという事は無いだろうが、それでも橘さんがネクロマンサーの能力を自覚してからかなりの日数が経過している。
そして、今分かっている情報として橘さんの操縦士の基本スキルである『操縦』はスキルレベルが上がる事で、同時に操れる総数が上昇していく。
これは、昔橘さん本人に聞いたので本当の話だろう。
今、一体何体のゾンビを従えているのか……
それによっては確かにこれだけのギルドを集める必要があるだろう。
まるで一人スタンピードだ。
それを伝えると、黒峰さんは驚いたように言う。
「そんな探索者が居るのね」
「ですね。俺も驚きです」
ただ、こちらにとって都合のいい情報もある。
操縦士は系統として鑑定士と同じ様な分類になると考えられる。
であれば、本人の戦闘能力はそれほどでもないのではないかと思っている。
俺たちは会議へ向かう。
会議室には見知った人間が何人かいた。
今回の参加ギルドは合計、13。
アナライズアーツ、鮮血の偶像、パープルミスト、千剣の盃もその中に入っている。
そして、橘修柵を殺すための作戦会議が行われる。
橘さんを殺さなければならない理由は、それ自体が人類の脅威だからだ。
単純な戦力、迷宮都市建設の遅延、何より人殺しの重罪人。そして俺の理由は、あの人に感謝しているから。
俺たち13のギルドからなる大連合が、Sランクダンジョンへの侵入を開始した。
「面白そう!」
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