五十七話 危険な人物
ジョン・エナルドから事の発端を聞いた俺は、ギルドへ戻った。
この情報に関して、アメリカ政府と日本政府は知っているらしくジョンさんは俺の協力が必要だからと自国の行政に掛け合ったらいい。
しかし、伝える事を許可されたのは俺だけらしく、例えば俺が他のギルドメンバーに言えるようになるには具体的な作戦が立案された後になるとの事だ。
しかし、俺がタクシー内で会ったと言うとジョンさんも険しい顔になった。
日本に来ていると言う情報は掴んでいたが、まさかこれほど近くに居るとは思っても居なかったのだろう。
しかし、橘さんがここまで近くに居る事は間違いなく事実だ。
彼の能力なら、飛行機でも潜水艦でも触れば操作できる筈なので遠くに行かれる可能性はある。
しかし、アメリカから日本に来たという事は日本か、その先に何らかの目的があるのだろう。
更に、日本でもモンスターが外で暴れるというアメリカと同様の事件も起こっている事から、何かしているというのは確実だ。
今現在、俺たちが持っている橘修柵という男の情報は、モンスターを操る能力があり、そのモンスターは操られる前から死んでいたと予測される事。
タクシーの中で鑑定しておかなかったのが悔やまれるが、ずっと前から橘さんには人に鑑定は不用意に使わない方が良いと言われて来た。
見た見てないの話になると、俺が糾弾されるかもしれないから鑑定は基本人にはしないで、したとしても誰にも話さないようにした方がいい、というのは橘さんからのアドバイスだった。
それを思い出してか、俺はタクシーの中で橘さんを鑑定しなかった。
それを伝えるとジョンさんは落ち込んだような表情をしていた。
しかし、ここまで情報があれば橘さんの目的は簡単に推察できた。
狙いは恐らくSランクダンジョンだ。
奥さんを蘇生しようとしている以上、必要なのはレベルアップ。
では、どのダンジョンが最もレベルアップの効率が良いのか。モンスターの経験値は強くなればなるほど増える。
そして、この世界で最も強いモンスターがいると思われているのはSランクダンジョン『ワダツミ』である。
日本で事件が起こったのは、日本のダンジョンでの効率を実験してみたとかそう言った話だろう。
橘さんが俺の動画を見たという可能性もある。
橘さんには世話になった恩もある。
だから、手伝ってあげたい。奥さんを蘇生する方法があるというなら、手伝いたい。
勿論、罪を償った後でだ。
だから、まずは捕える。そこに協力する。
それに、俺の鑑定の力は『操縦士』の能力の分析にも使えるだろう。
もしかしたら、蘇生するような系統の能力が既に目覚めているが、本人が気が付いていないだけの可能性だってあると思う。
そんな彼の助けになるのならって話だ。
待って居れば、恐らく建設途中の迷宮都市に侵入者が入る事だろう。
そうすれば、世界中のギルドに迷宮都市が万が一にも占拠されない様に依頼が出るはずだ。
アナライズアーツは武闘派って感じじゃないからあれだが、パープルミストや鮮血の偶像なら確実に選ばれるだろう。
そうなれば、そこに俺が紛れるくらいの許可はジョンさんや黒峰さんに取って貰えると思う。
Sランクダンジョンの初探索がこんな形になるとは夢にも思っていなかったが、遅かれ早かれだ。
今の人類がどこまで通用するのか見に行こう。