五十四話 猛者
その男の名は、松玲十郎といった。
俺が清水さんから連絡を受けてやってくると、その男が客室で茶を啜っていた。
巨漢の大男は、着物を着こみ刀を一本腰へ携えていた。
「それで、うちのギルドに何の用だ?」
ダンジョン探索を引き上げ、他の皆と一緒にギルドに急いで帰って来た。
それも、この男が帰らないと宣言したからだ。
ギルドに居るのは戦闘力の無い人だけだし、警察に通報して暴れられても面倒だから俺がここまでやって来たのだ。
「儂は松玲十郎と申す者。このギルドへ加入を希望する」
「じゃあ募集が出てからまた来て貰えますか?」
斉藤さんがそう言い返すが、玲十郎は惚けたように言う。
「悪いが暇じゃないもんでな」
はぁ、会話になってない。
「いいよ、俺が話すから皆退席してくれ」
皆を退室させ、俺は男へ問いかける。
「それでレベル120越えのAランク探索者がうちのギルドに何の用だよ? 『侍』さん」
「ほぉ、やはりその力は本物の様だ」
皆を退室させたのは、話をうまくまとめようとかそんな話じゃなく、こいつが暴れ出すと俺とリオンさんで止めるしか無くなるからだ。
争いは起こせない。ここは俺のギルドなんだから。
「用件は先程言った通りじゃ。儂はここに加入したいと思って居る」
「なんのために?」
「そりゃぁ、強き者と戦うために決まっとる」
俺の善悪鑑定じゃこいつは善意も悪意も持っていないと判断されている。
なら、ここに居る理由は十中八九自分のため。
「戦闘狂かよ……」
「間違いないな。しかし、別に人斬りなどでは無いぞ」
松玲十郎の語った事は、酷いくらいに単純な物だった。
Sランクダンジョンワダツミに入れるのは、探索者ならアジア太平洋の会議に決まったギルドだけ。
この玲十郎はどこのギルドにも加入してないから絶対に入れない。
けど、それじゃあ折角の地上最強ダンジョンに挑めない。
だから手頃なギルドに入りたい。
今の所日本で迷宮都市へ赴く事が決定しているのは、うちを入れて数カ所しかない。
それで、たまたま動画を見たからここに来たらしい。
「金も無いでな。ここへ加入すればあの武器を譲ってもらえるかと思っての」
打算全開じゃないか。
魔石武器まで欲しての事だったらしい。
はぁ……
「もし、俺の命令に逆らったら除名。いいなら雇ってやる」
相手は黒峰静香や千宮司剣に並ぶAランク探索者だ。
無碍に扱うのももったいない。
「構わぬ。ただ戦いには参加するぞ?」
「分かったよ。探索やスタンピード時には必ず駆り出す」
「では、これよりよろしく頼もう。それと、これは土産じゃ。三年ほど負け続けたが漸く倒せた」
そう言って玲十郎は一つの魔石を取り出した。
直ぐに鑑定を発動すると、それが何の魔石なのかが理解できた。
「ははっ、マジか……」
Aランクモンスター。
ギガジャイアントの魔石だ。
こいつ、もし一人で倒したんだとしたら相当強いぞ。
~~
その日は、それで終わった。
けど、そのつい一週間後の事だった。
「頼もう!」
そんな声がギルドビルに又もや響いた。
やって来た理由は玲十郎とほぼ同じ。
今まで個人だった戦闘狂の探索者だ。
Sランクダンジョンに入れる様に成ったらすぐに行きたいからと俺のギルドに入りたいらしい。
流石に玲十郎とは違いAランク(レベル100以上)という事は無かったが、それでも相当な高レベルの探索者だ。
玲十郎と同じ条件で契約する事にした。
どうせ探索者の数は増やす予定だった。
向こうから、しかも高レベルの奴が来てくれるならそれでいい。
それも元々ギルドに入ってたわけじゃ無いから変なしがらみも無いしな。
募集動画で見て来た探索者は金や名誉のためだったが、こいつらは強敵を求めているだけだ。
その分扱いやすいと判断した。
彼らの階級に関しては探索者の第二チームメンバーとした。
俺やリオンさん、秋渡や耶散が第一チームメンバーという事になる。
俺たちとは基本的に別行動で、他のギルドと同じシステムで働いてもらう。
ダンジョンに行って、素材を持ち帰って来るという基本的な仕事だ。
玲十郎を含めて10人ほど集まった彼らの強さだが、一週間でモンスターの討伐数は合計1万体に上った。
鑑定で分かっていたつもりだが、やはり強さに関しては信用して良さそうだ。
しかし、玲十郎の強さが頭一つ抜けているらしくAランクの魔石を使った魔石武器の性能も相まって無双の強さを発揮している。
これなら、パープルミストからの依頼されてた“あれ”もどうにかできるかもな。
「面白そう!」
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