四十九話 奇妙な動画
その日、ソラソラのモンスター鑑定チャンネルに一本の奇妙な動画が上がった。
『なんだこの動画』
そんなコメントが幾つも撃ち込まれた。
『この武器だよな……』
『何これ、石製の剣?』
『他のメンバーも持ってんぞ』
動画の中でアナライズアーツのギルドメンバー四人の内三人が同じ武器を持っていた。
それは石の剣と形容するのが相応しい武器で、今まで使っていた武器に比べて極めて低品質の物に見えた。
『まぁけど、武器がなんでもレベル差があるし負けないだろ』
『動画の趣旨はいつもと同じっぽいね。鑑定して、弱点とか倒し方を教えてくれる感じ』
『ていうか、武器折れてるし』
途中のシーンで石の剣が強烈な一撃に耐えきれず破壊される映像が移された。
それが何よりその武器が特別な物では無いと示している。
『何本持ってんだよ』
『他の奴らも武器が壊れる度に入れ替えてるっぽいな』
『普通にいつもの武器使えばいいのに』
その日に投稿された動画から、一週間ほど彼らはその石の武器での討伐を行っていた。
『どんな武器でもこの方法なら倒せるよって示したいとか?』
『どっかの提供って事は……ないか流石に』
その石の剣についてのコメントは多くあったが、大多数はその鑑定情報に食いつくコメントで武器に関するコメントは少数だった。
しかし、それが一週間も続けば流石に視聴者も何か変だと思い始めて来た。
『なんの説明も無いって事は……なんなんだろう……』
『分かんねぇのかよ』
『これ、昔うちのギルドにいた鍛冶師の武器だ』
そんな中、その石の剣に見覚えがあるという探索者のコメントが少しづつ増えて行った。
鍛冶師、峰岸紅蓮は様々なギルドを転々とした経歴を持ち、悪い意味で彼の事を知る探索者は少なくなかった。
『そういや友達がアナライズアーツのマスターが『鍛冶師』のクラスを持つ奴が部長になったとか言ってたな』
『それ何処情報よ』
『ガチ?』
『だとしたらマスターアホだろ。あれって石の剣しか作れない雑魚だぞ』
『何考えてんだよアナライズアーツ』
『鑑定でなんか見えたんじゃね?』
『なんかってなんだよ』
『さぁ、知らんけど』
コメントの内容は、批判的な物が増えて行った。
何を考えてるのか分からない。もしくは何故鍛冶師なんて雇ったのか意味が分からない。
そんなコメントが溢れかえっていた。
『社長が元々雑魚クラスだったから、それと同じ境遇の奴を拾って慈善事業でもしてんじゃね?』
そんなコメントまで溢れて来る始末だった。
そして、8日目の動画。
そこで使っていた武器は石の剣では無くなっていた。
『これ鉄だよな』
『あぁ、石の剣が鉄の剣にグレードアップしてる』
『何が起こったんだ?』
9日目。
『鋼だ……』
10日目。
『これ何?』
『モンスター素材だよ馬鹿』
11日目。
その日、彼らが持っていたのは紫色の水晶のような素材の武器だった。
その前日には、既に武器が壊れるなんて事は殆ど無くなっていた。
それは動画ではなく生配信で、今までの動画の趣旨とは全く異なる内容だった。
「皆さんこんにちは、アナライズアーツの天空秀です。今回はこの武器について少しお話させて下さい」
天空秀は、その武器の名を『魔石武器』と言った。
「我々が雇った鍛冶師がレベルアップした事によって作れるようになったこの武器には、既存の武器には無い特筆すべき点が幾つか存在します」
『今日生配信だぞ』
『何やるんだ?』
「今回動画ではなく生配信をさせて貰っているのは、この現象が編集などでは無いと証明する為です」
そう言って、天空秀はモンスターへ向けて武器を振るった。
紫色の水晶でできた剣がモンスターを断ち切る。
画面には切られた瞬間は映らなかったが、斬られた後の炎を吐く鳥のようなモンスター、『フレイムバード』の半身が写り込み、それが剣で攻撃された結果であると誰もが理解できた。
「この魔石武器の効果は二つ。一つ目は、この武器で殺したモンスターの魔石を吸収する事」
モンスターには必ず体内に魔石と呼ばれる結晶体が存在する。
それが魔力を発生させる器官だと考えられている。
『死体が邪魔で見えねぇよ』
『ほんとかよ』
『迷宮武器って事か?』
『魔石武器って言ってるだろ。迷宮武器とは多分別物だろ』
『そんな物どうやって作るんだよ』
『そりゃ……知らんけど……』
「そして2つ目の能力」
そう言うと、画面には一人の男が現れる。
『あいつ鍛冶師の奴じゃん』
『マジで鍛冶師とか雇ってたのかよ』
『じゃあこの武器もその製品って事?』
『あいつには期待しない方が良いって、石の剣を作るのが精々の奴なんだから』
画面に現れた峰岸紅蓮はコメントが見えたのか少し悔しそうな顔をすると、天空秀から剣を受け取った。
そして、何かのスキルを発動させる。魔法陣とも思える様な幾何学図形が幾つも剣の上に展開され、数秒でそれは収まった。
「できました」
「よし。さて、これの二つ目の効果を実演しましょう」
天空秀がそれを受け取り、武器へ魔力を流し剣を振るった。
その瞬間、炎が空を舞った。
『え?』
『なんだ』
『迷宮武器なら普通だろ』
ダンジョンから産出される武器や防具には不思議な能力が込められて居る。
その中には炎を発生させる道具も確かに存在する。
けれど、驚くべきはそこでは無い。
『まさか……』
『いや、そんな事できる訳……』
嫌でも、今しがた倒されたフレイムバードの記憶が蘇る。
「この剣は、倒したモンスターの魔石を吸収し、そのモンスターのスキルを武器に保存し使用可能とする効果がある」
その後、それを証明するようにアナライズアーツの全ギルドメンバーが剣を振るい炎を発生させる効果を発揮させていく。
これで、個人のスキルによって発生した炎ではないという事が証明された。
『もしかして鍛冶師ってやばいんじゃ……』
『これがガチなら、魔石武器一強の時代になるぞ』
『しかも、鍛冶師なんてクラス聞いたことねぇって事は、発生確率が限りなく低いクラスって事だ』
『というと?』
『この魔石武器って技術は、アナライズアーツが完全に独占した状態になってるって事だよ!』
天空秀が画面の中で笑う。
「お買い求めは概要欄のホームページから。メニューも掲載しているので、どうぞご購入を検討下さい」
そう言って、動画は終わって行った。
魔石武器 ¥20,000,000 円
スキル入れ替え ¥2,000,000 円
その武器は法外な値段に設定されていたが、購入者は全世界で続出した。
そのページの一番下に書かれた『この武器で倒したモンスターの経験値は半減する可能性がありますがご了承下さい』という文面の意味を正確に読み取れた者は少ない。
「面白そう!」
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