三十六話 ダークエルフ vs 人類3
戦況は正直悪い。
そもそも、モンスターと探索者のランク差は同じランクの探索者が三人必要というパワーバランスだ。
リオンさんをA級判定したとしても、4対2で相手の方が強い。
俺の先読みと鑑定もあってか持ちこたえてはいるが、それでも攻勢に移れていない。
セブンさんが抑えている女の方は、リオンさんが降霊召喚で強化した剣術で攻撃しているが、そのどちらの攻撃も抑えきっている。
男の方は、ゼニクルスが前衛、黒峰さんが後衛で抑えている。
ゼニクルスの短距離転移で、魔法をいなしつつ、黒峰さんの血液操作によって作った弾丸で削る感じだ。
しかし、血の弾丸は魔力で作られた防壁に阻まれて通っていない。
ゼニクルスの次元を切裂くあの技も、ダークエルフの空間干渉能力が高すぎて直接攻撃できていない。
守りは強固、だからこそどちらとも攻めあぐねている。
こちらにも必殺技と呼べるスキルは幾つかあるが、どれも溜めを必要とする大技だ。
その時間を稼ぐ……
――必要は無い。
俺は『模倣』を発動させる。
その対象はセブンレッドの【ドラゴブレス】。
彼の持つスキルの中でも最も攻撃力が高く、それでいて溜めの長い技。
大口を開け、そこから一気に属性エネルギーを放出する。
俺のスキルじゃ同時に二つは模倣できないから、本来は変身中のドラゴンの種類によって属性の変化するこの技は、しかし今だけ無属性で放たれる。
無属性のドラゴブレスの特性は、『音』だ。
「ふぅ…………」
大きく息を吸い込む。
その息に魔力を乗せて。
(ゼニクルス、皆を下げろ)
「御意!」
「は? ちょっと待て、なんだその魔力の圧力は」
今更気が付いても遅い。
そこから、回避するのはゼニクルスみたいな転移魔法が無いと不可能だ。
俺は、二人のダークエルフへ向けてブレスを飛ばす。
「ァアァァアアアアア!!」
金切声の様な高音が、空間を埋め尽くす様に放たれる。
その音には魔力が宿り、その声には物理的な破壊力が宿る。
「ッチ、多重防壁展開」
初めて詠唱する声を聴いた。
男のダークエルフが複数枚の魔力防壁を展開し、その中へ女の方が駆け込んでいく。
俺のブレスは全5枚からなる防壁の内三枚を破壊し、四枚目にヒビを入れる。
しかし、仕留めるには足りない。
だけど、問題は無い。
「ゼニクルス!」
ゼニクルスの転移魔法は自分以外も転移できる。
ただ、他人を転移させる場合は先にゼニクルスが定めた魔力の籠った護符を所持している必要があり、転移距離は最大30m程になってしまう。
だが、その距離なら好きに転移可能。
「次元斬!」
「ドラゴンクロー!」
「血刀術」
「降霊武装、神剣オロチ!」
魔力防壁は防御でもあるが檻でもある。
そこに自分たちから入ってくれるのなら、こんなに都合のいい事は無い。
ゼニクルスの転移魔法で、ダークエルフたちの上空四方向へ皆を配置。
そこから、一気に攻撃する。
「どきなさい」
女の方が、男の方を突き飛ばした。
女のダークエルフは上空からの攻撃に対して防御、ではなく攻撃を選ぶ。
「一緒に吹き飛べ、爆拳!」
殴りつけたその拳に火花が散る。
彼女の攻撃に魔力を練り上げる予兆は無かった。
俺の鑑定した情報を挟める余地が無かった。
だから、皆はその攻撃と真正面から相対する事になる。
きっちりと、斬撃は彼女へ命中した。
けれど、それと同時にダークエルフが突き上げた拳から放たれる爆撃も四人へ命中した。
四人がそれぞれの方向へ吹き飛び、そして女ダークエルフには深々とした四つの傷がついている。
「皆!」
女のダークエルフの方は見るからに致命傷だ。
辛うじて息をしているが、鑑定によってその体力が殆ど残っていない事が分かる。
ただ問題はこちらの戦力の状態だ。
今ので四人が戦闘不能になっているのなら、俺だけでもう一体のダークエルフを倒すのは不可能。
「大丈夫です」
「私もまだいけるわ」
「我が主よ、ご命令を」
「俺をなめんなっての」
四人は立ち上がる。
これなら、勝てる。
そう思った瞬間だった。
「ねぇ君たち、一体何してくれてんのさ?」
今までとは比べ物にならない程の極大な魔力を放ちながら、残った男のダークエルフが俺を睨みつけていた。
「面白そう!」
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