三十話 共同
神薬の素材は基本的に生物の血液だった。
7つの種族の血液を合成し、蒸留やらろ過とか色々とした結果神薬が完成するらしい。
その中の1つに、ダークエルフの血液があった。
「ダークエルフは分かりますが、他の六種は俺の知識にないモンスターの物ですね」
ギガジャイアント。
リバイア。
ムーンタイガー。
アークセイバー。
シグマ=ゼロ。
メデュシア。
どれも見たことも聞いたこともないモンスターだ。
「ダークエルフ。それにリバイアねぇ……」
何か思う所があるのか、セブンは顎に手を当てる。
『話そう。我々はウロボロスの最新階層、つまり迷宮主に遭遇し生還している。と言ってもセブンがという話だがね。そこに居たモンスターこそ、まさしく『リバイア』と形容するに相応しい海龍種のモンスターだったんです』
公開されてない情報だ。
アメリカギルドもAランクダンジョンの迷宮主に遭遇していたのか。
まぁ、7つの種族の血って時点で嫌な予感はしてたけど。
この世界に存在するAランクダンジョンの数は、スカイフォートレスを含めて7つ。
つまり、ここに書かれた素材の種族ってのは全Aランクダンジョンの迷宮主の名称……って事なんだろうな。
『なるほど、それがAランクダンジョンの攻略報酬という訳か』
「みたいですね。すいません、直ぐに有効な情報じゃなくて」
『いや、それが分かった事自体が我々にとって得だよ。それに君の力についても知れた。今後とも懇意にしたいと思うね』
「ですね」
俺だってA級探索者がいるギルドを敵に回すなんて考えたくもない。
『約束の報酬だ。受け取ってくれたまえ』
そう言って、巻物が入っていたケースとは別にごついケースが机に広げられる。
その中に入っていたのは現金だ。
でも、正直もう金は要らなくなった。
いつ手に入るとも分からない薬品を待つよりも、俺が自分の手で血を集めた方が確実だ。
「報酬は要りません」
「え? いいの?」
「はい、翻訳お願いします。その代わり、セブンさんをダークエルフ攻略作戦をするときに貸して下さい」
俺の言葉に驚きながら、清水さんは翻訳してくれた。
それを聞いた瞬間、彼らも似たような表情を浮かべる。
しかし、セブンだけは笑みを浮かべていた。
「あんた。凄い事考えるじゃん」
「ダークエルフには借りがあります。それにあいつは強い、できる限り万全の体制で挑みたいんです」
俺がそういうと、ギルドマスターの男性に何やら英語で話し始める。
それを聞いて、ギルドマスターのジョンさんは更に驚きの表情を浮かべる。
「『私はそれでもいい』と言ってますね」
俺、ゼニクルス、リオンさん、セブンさん、そして黒峰静香が居れば、ダークエルフ攻略にこれ以上ない万全の体制で挑む事ができる。
黒峰さんだってダークエルフには三人殺されてる。仇討ちをしたいと思ってるはずだ。
人類初のA級ダンジョン攻略。それを達成する名誉があれば報酬なんて野暮な事は言わない、と思う。
それに、このメンバーを揃えられるのは多分世界中探しても俺だけだ。
「勿論、ダークエルフ討伐の暁にはその血を提供させて頂きますよ」
『なるほど。しかし……』
「いくつかのギルドでの共同作戦とはなりますが、それでもA級ダンジョンの初攻略ギルドの称号を手に入れる事ができます。勿論、セブンさんにご協力いただけない場合は、他の方法を模索しますが」
今、俺の力は見せた。
だったら、俺の言う模索って言葉の意味も大分過大評価して受け取ってくれるんじゃないかと思う。
何より、探索者であれば誰もがその名誉を賜りたいと思うはず。
そして、セブンさんの感触は悪くない。
後は、どれだけジョンさんにメリットを提示できるか。
セブンさんは日本語もできるから、それもでかい。
何としてでも手に入れたい戦力だ。ただ、できたばかりのギルドである俺たちが語るそれを信じられるかという話はあるが。
「俺はダークエルフを討伐します。絶対にです。だからどうか、お願いします」
俺は立ち上がって頭を下げる。
彼らの話し合いでは、多分ギルドマスター以外の二人は反対している。
それくらいは俺でも分かる。けどセブンは乗り気だ。
最後の選択は彼一人に託された。
『分かりました。来たるべきその日に、セブンを含めたこちらの探索者を共同作戦に参加させましょう』
よし!
「ありがとうございます!」
そんな約束を取り付けて、俺とパープルミストとの会議は終わりを迎えたのだった。
「面白そう!」
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