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百四十四話 不幸も理不尽も

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。


 敵の本拠地が完全に消滅した。

 その場には、この異界からの出口だけが残されている。


 龍の王族、その戦力は俺の世界でも群を抜く程に強力な物だった。


 悪魔ヴァルキュリア。

 精神霊(イノセント)リッケンメイカ。

 死霊王マエストリア。

 彼らもまた、英雄と呼ぶに相応しい存在だった。


 けれど、勝敗は既に決している。

 マリアの最期の一撃は、空の彼方へ消えて行く。

 それは、敵の拠点の消滅した理由がマリアのブレスによる物では無い事を暗示している。


 敵の拠点を滅ぼせるなら、マリアやヴァルキュリアが死んだとしても意味があっただろう。

 けれど、結果は逃げられた。

 こちらの勝利条件は、この都市の制圧。

 しかし、既に戦力は相手が優勢な事は目に見えている。


 マリアは落ちる寸前。

 ヴァルキュリアも生きているのが不思議だ。

 リッケンメイカはこの場に居らず。

 戦えるのはマエストリアのみ。


 また負けるのか。

 俺は何もできず。

 俺の生には意味が無いと、またそれを認めさせられるのか。


 無力な餓鬼が一人無謀に挑戦し、やはり届かず散っただけ。


「ふざけるな」


 俺は、負けない。


(マビト……)


 声が頭に響いた。

 リッケンメイカの念話を介してマリアの声が、俺に届く。


(逃げて)


(は……?)


(私は貴方の事を知っている。だから、貴方になら『できる』と思ってるの。いつもと同じ、できるまでやってできる限りの手段を用いて、確実な成功を得られる様に施策する。それが、私が期待する貴方よ)


(えぇ、その為に我もこの場に来たのですから。貴方様の剣として、我は道を切り開くのみ)


(魔王様、儂もここで果てる所存でございます)


 マリア、ヴァルキュリア、マエストリア。

 三人が同じ意思を伝えて来る。

 ここで、死ぬと。


 あぁ、分かって居るさ。

 ここで、勝つのはもう無理だ。

 相手の人間の戦力もここに集中してきている。

 時間を掛ければ不利になるのはこちら。


 命令するのなんて簡単だ。

 いつだってして来た事だ。

 誰だって、どんな存在だって、俺に取ってはただの盤上の駒に過ぎないのだから。


(ダメだ……死ぬなんて許さない……)


 効率なんてどうでもいい。

 作戦なんて何もない。

 勝敗も関係ない。

 死ぬな。死なないでくれ。


 あぁ、願うとはこういう感情を言うのだろう。

 ずっと昔に忘れた感情だ。

 この世は行動と結果だと思っていた。それだけで全てが決定される簡単な世界なのだと。

 だから、願う者を馬鹿にしていた。願うのならば行動するべきだと思わずには居られなかった。


 けれど、この無力さはなんだ。

 願わずには居られない。

 誰でもいいから、助けてくれと。

 そんな都合の良い声を上げてしまいそうになる。


 でも俺は誰よりも奇跡が無い事を知っている。

 神は既に敵なのだから。


(最後まで一緒にいれなくてごめんなさい)


 マリアがそう言って、最後の力を振り絞って突撃した。

 数多のスキルと数多の魔法が、その身を焦がしていく。

 死にたいのマリアがそれら全てを防げるはずもない。


「魔鎧全装」


 ヴァルキュリアの編み出した奥義。

 身体能力を向上させる強化魔法ではなく、魔力によって魔道具を限定的に召喚する魔法。

 その魔法があったからこそ、悪魔という種族でありながらあの男は最強の剣士と呼ばれたのだ。


「魔剣イグニドラ」


 ヴァルキュリアの手に握られた大剣が、その刃を一気に振り下ろす。

 瞬間的に伸びた斬撃が、数十人の人間を一斉に薙ぎ払った。


 その攻撃の意図なんて考える間でも無く分かる。

 目の前にはダンジョンの入り口がある。

 それまでの道を開くための攻撃だ。

 そのために、三人はここで死のうとしている。


(逃げなさい)


(お逃げ下さい)


(逃げて下され)


 俺はなんだ?

 こんな無力で、僕に守られて、大した戦力も持たずに。

 俺は、一体何のためにこんな場所に立って居る。

 何故、俺はこの者達と一緒に戦える程強くないのか。


 なんで、俺の力はこんな力なんだよ。


 他者を支配する力は恐れられた。

 怖れられ、幽閉された。

 ずっと一人だった。

 ずっと一人考えて、自分なりに仕方がない事なのだと納得した。


 不幸も理不尽も、ありふれているものだと認識した。


 けれど、そんな俺にマリアは笑いかけた。


 寂しそうにしていたからと、そう言って話しかけてくれた。

 幽閉されていた塔の警備の目を盗んで、俺に毎日会いに来てくれた。


 マリアを操れば、俺は塔から逃げ果せただろう。

 けれど、俺はそうしなかった。できなかった。

 結局、自分の力が俺は嫌いだった。


 矮小でどうしようもない力だ。

 好きな者も、慕ってくれた者も守れない。

 他人を犠牲にする事しかできない力。


 初めて願うよ。

 心の底からお願いするから。

 頼むよ。今なんだ。今しか無いんだ。

 神様って奴が居るなら、俺のこの力を与えた誰かが居るなら、俺を助けてくれ。


『【魔物完全支配】が覚醒レベルアップします』


 何……?

 本当に俺の願いが叶ったのか?


『【魔物完全支配】の術下に居る一定ランク以上の存在が死亡した場合。その能力の一部を受け継ぐ事が可能となります』


「は……?」


 クソが……!

 馬鹿か俺は。

 こいつが、俺の願いなんて物を叶えてくれる訳無かった。


 その力は、結局誰かが死ぬことを容認しろって事だろうが。


「ふざけるなよ!!」


 声は空しく消えて行く。

 何の答えも帰ってこない。


 あぁ、そうかよ。

 お前は必ず、俺が殺してやる。


(お願いだから逃げなさい。マビト)


(やめてくれ。俺はお前たちを見捨てるなんて……)


(貴方は我儘だわ。力が無かったって、それだけの事でしょ。聡明だった貴方なら、きっと答えは分かって居るでしょ。貴方さえ居れば、私達はまだ負けていないのだから)


(弱ぐで、ごめんな……)


(泣き虫)


 あぁ、そうだな。

 けど、もう終わりだ。

 泣くのも願うのも、無理もしない。

 俺は必ず目的を達成する。


(リッケンメイカ、お前はこの世界に潜伏しろ。鑑定士には気を付けろよ)


(畏まりました)


 俺は逃げる決心を付けた。

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