百四十二話 攻勢
戦力差的に、俺たちは完全に優勢だ。
鮮血の偶像のギルドメンバーは、その全てが吸血鬼化の状態にあり、全ての身体能力と魔力が上昇している。
吸血鬼化は、冒険者ランクを一つ上げる程度の効果はありそうだ。
何より、言葉鈴が一人で人型を二体とも抑えているのが利いている。
「まだまだ行くよ」
「小癪な……骨城」
幾つも展開される骨のガードを、鈴の拳はことごとく打破っていく。
「魔王様、このままでは……」
骨の人型が弱音を発した。
「あぁ、分かってる」
魔王もそれに同意するが、奴の顔はどこか余裕そうだ。
このままいけば、そう時間が経たないうちに敵飛竜の軍を押し返し始めるだろう。
迷宮都市を手放す事すら視野に入っていた作戦だったが、その心配はもう必要なさそうだ。
そろそろゼニクルスの再召喚も可能となるし、全ての状況がこちらの有利に働いている。
問題があるとすれば、リオンの方の戦況だ。
あの龍王がやってくれば、押し返される可能性はある。
しかし、リオンが破れる様な相手に太刀打ちする術は無い。
勝ちを信じる他無いだろう。
「勝てるぞ!」
誰かがそう言った。
その声を歯切りに、一気に声が広がっていく。
「行ける!! 行けるぞ!」
「踏ん張りどころだ!」
戦力は十分。
戦況は優勢。
どうみても、この戦いは人間側の勝利に見えた。
「遅いよ、マリア」
魔王の口がそう開く。
俺の観測が、口の動きを読み、意味を伝えて来る。
マリア? それは確か、リオンと戦っている龍の名前の筈だ。
何故、今その名前がお前の口から出る?
嫌な予感が鳥肌を立てる。
【悪かったわね。少し手こずったわ】
それは、音と言うには巨大な物で、風圧と言った方が適切だったかもしれない。
そんな爆音が、戦場に響く。
影が差した。
太陽と俺の眼をさえぎる場所に、何かがあらわれたのだ。
巨大な影が戦場を覆う。
今まで見たどんなモンスターよりも巨大で、今まで視たどんなステータスよりも強い。
その存在の名が、俺の眼に映る。
「なんで、お前がここに来れる……!?」
リオンはどうした。
最悪の想像が俺の頭を過る。
(リオン! 返答しろ!)
傍受されている事など関係なく、念話を使って呼びかける。
しかし、一向に声は帰ってこない。
龍王マリア。
それが最初に見た少女の姿とは全く異なる、ドラゴンの姿を以てこの場に現れた。
周りの飛竜とは、サイズも魔力量もスキルも別物。別格の強さを持った、正しく王の名が相応しい姿だ。
「魔王様、ヴァルキリア参上致しました」
いつの間にか、マビトの隣に一匹の悪魔が居た。
あれは、新藤と戦っていた奴だ。海に沈んで、倒したんじゃ無かったのか?
「お前も来たか。マリアとヴァルキリアであの人間どもに穴を空け、探索者共を止めろ。俺とマエストリアで進む」
【分かった】
「御意」
状況がひっくり返った。
「鑑定士、貴様の目にはしっかりと敗北が映って居るか?」
魔王がふてぶてしくそう言い放つ。
俺をしっかりと見据えたその余裕の表情は、この戦場で一度たりとも崩れてはいなかった。
「映ってねぇよ」
まだだ。
まだ負けが決まった訳じゃない。
しかし、鈴だけでこの四体を止められるとも思えない。
やっと、時間が経った。
「全力投資だ。来い、ゼニクルス」
コストが高すぎて数回しか使ってなかったスキルを使うとしよう。
『堕天使』。それは、ゼニクルスの状態を更に解放するスキルだ。




