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百四十話 鑑定士と魔王


 当初の予定じゃもうとっくに作戦は終わってる筈だったのにな。


 そんな事を考えながら、俺は空中を走って移動していた。

 ゼニクルスの再召喚まで残り30分強。それまでに敵のメイン戦力が都市中央の総合ギルド本部に入ればこっちの負けだ。

 民間人含め多大な被害を生み、本部を失った場合俺たちが再起する方法は考え付かない。

 この迷宮都市を明け渡すしか無くなる。


 ゼニクルスが復活すれば、俺の魔力が許す限りの人間を別の大陸に逃がす事ができる。

 致命的な敗北から、普通の敗北くらいには被害を抑える事ができるだろう。


「って、何負けた時の事ばっか考えてんだ」


 俺は結局戦闘職じゃない。

 大局を見て、的確な指示を出せればまだ挽回のチャンスはある。

 大丈夫な筈だ。

 こっちには、AランクもSランクも居る。




 ゼニクルスの復活まで残り20分弱。

 俺はようやく、最前線まで追い付いた。

 大量の飛竜とアンデッド。しかも死んでる筈の飛竜が動いてる。

 死体を使うってのはダンジョンモンスターからすれば、大分ノーマルな戦法らしい。


 対してこっちの戦力はアナライズアーツの殆どの探索者。

 総合ギルドや他ギルド、聖リント教会の奴らも混じってる。

 迷宮都市にある探索者戦力の八割以上がここに集結していると言っても、過言では無さそうだ。


 Aランク以上は、うちは玲十郎だけ。

 聖リント教会からSランクが四人。

 他のAランクギルドのマスターが五人。

 黒峰さんやセブンさんはまだか……千宮司さんも居ないし。

 何やってるんだ。


 人数的にはモンスターに分がある。

 質に関しても。

 なら、狙うは相手の頭だ。

 幸いな事に、何故が一番重要そうな奴がこの場に居る。


「玲十郎! 道を作れ!」


 そう叫んで、俺は一気に走る。


「【瀧薙ソウテイ】」


 それは、厳密に言えばスキルでは無い。

 スキルに込められた効果を、本来設定されていた最大限を超過して起動する荒業。

 そして、恐らく玲十郎にしかできない神業だ。


 空に切れ目がは入り、空間的な穴が空いた。

 そこを走りながら【魔壁】を俺を囲む様に展開。

 これで、直通だ。


 俺が目指していた場所には、一体の人型と飛竜が居た。

 そいつがこのモンスターを操る張本人。


「魔王なんて、大層な名前じゃ無いか」


 切っ先を向けて、俺はそいつに言い放つ。


「魔王、そうかお前の目に俺はそう映っているのか。だが心外だな、俺はただの人間なんだから」


「人間だと?」


 確かに人型で、生体情報として人間と離れている部分は見受けられない。


「お前はモンスターを操り、人間と争ってんじゃねぇか」


「何を言ってるか分からないが、人間と人間が争うの何ていつもの事だろ。それとも何か? 自分たちの敵は全員『モンスター』か?」


「関係ない。どちらにしてもお前は俺が倒す」


 こいつを倒せばモンスターを操る能力は終了する。

 烏合の衆なら、囲んで叩けば何とかなる。

 問題は、視界に入る全てのモンスターが一糸乱れず総合ギルド本部を狙っているこの状況だ。


「俺もお前の事は知っているぞ、天空秀。鑑定士というクラスを持ち、様々な偉業を成し遂げて来た英雄。だったらお前に降りかかるこの問題も解決してみろ」


 魔王マビト、そう鑑定された人型が手を翳す。

 瞬間、周りを飛んでいた飛竜が一気に俺に飛来した。


 神気生成。


充填(チャージ)解放!」


 神気の生成を始めた俺の魔力には、神気が宿る。

 充填は魔力を武器に集中させ蓄える力だが、俺の場合はそれに神気も宿る。


「その力もそうだ。英雄の証」


 飛竜を切裂き、マビトに向けて剣を振る。


「でも、まだまだお前は成りたてで、今のお前の力は俺たちには及ばない」


 俺の眼は、相手の力の流れを読む。

 この力と武術の相性は良く、だからこそ俺は玲十郎から二年と半年の修行を受けるだけでそれなりに強くなれた。

 だが、今の俺でも玲十郎には勝てない。クラスの性能依然に、技術が全く足りていない。

 玲十郎は俺の眼を理解して、力の入れ具合でフェイクを混ぜてきたりするからだ。


 マビトの身体がブレる。

 速度が速い訳じゃ無い。俺の眼が騙されたから、消えたみたいに見えている。


「弱い奴が、自分のできる限界を熟すために務めるなんて当たり前の事だろう」


 これじゃあまるで、玲十郎と同じ技量を持っているみたいな。


 バランスの悪い飛竜の背を足場に立って居るにも関わらず、歩法と力の入れ具合で俺の眼を誤魔化す。

 次に俺が感じたのは腹部への痛み。


 掌打か。


「魔力で身体能力が強化されたって内臓はそこまで強くならない。内側に力を伝える方法さえ体得していれば、身体強化が無くともダメージは出せるって事だ」


 年季が違う。

 侍というクラスを持っていない玲十郎。

 こいつの評価はそんなところだ。

 これでも俺のレベルと身体強化はAランク探索者並みの筈だ。

 にも関わらず、魔力操作と体術で俺を圧倒してくる奴がいるなんて……


「年季が違う」


 奇しくも、マビトは俺と同じ評価を俺に下す。


「ステータスを見て勝てると思ったから突っ込んで来たんだろうが、お前じゃ俺には勝てないな」


「魔王様、ご無事ですか?」


「心配するな。それよりマエストリア、お前は俺の警護に付いておけ。取り合えず『他の幹部が来るまで』押し切られなければいい」


「了解致しました。リッケンメイカからの念話によれば、あちらも本気を出さざるを得ない様な強敵のとの事ですが……」


「負けないよ。マリアもヴァルキリアも、俺には分かる。不安か?」


「いえ、貴方様の御心のままに」


 このマエストリアという骸骨のモンスターは別格の相手だ。

 俺じゃ勝てない。

 こいつが魔王の隣で警戒してるなら、俺だけで切り崩すのは無理だな。

 こいつの力を見誤った。



 念話が使えないのがキツイ。

 俺が今いる場所の戦況の把握しかできないからだ。

 他の場所の勝敗が、この場の勝敗に直結する。

 もう少しここに突破力があれば……


 俺がそう考えたのと、俺の眼に見知った魔力が見えたのは同時だった。


「私たちも参戦させて貰うわね」


「リベンジマッチだ」


 龍人と吸血鬼が、翼を傍目かせて戦場に現れた。

 ステータスを見る限り、俺が最後に見た時よりかなり強くなっている事が伺えた。

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