百三十七話 双剣士
強さが全てを俺に与える。
それが、俺が知っている唯一の真理だ。
「クイックムーブ!」
短時間の運動加速、それによって一気に跳躍した俺はそのままリオンと龍の鱗を纏った女が居る高度まで跳び上がる。
リオンを押しのけ、続けざまにスキルを起動する。
――アクセルビジョン。
視覚情報の伝達速度の向上。
突撃する鱗女の動きを見切る。
幾ら速かろうが、攻撃の角度とタイミングが割り出せれば対応は可能。
「戦場で目を瞑る奴があるかよ」
そう呼びかけながら、鱗女の突撃を双剣で受け流す。
感じた事の無い重さだが、俺はそれを弾くだけの力量を持っている。
そう心に願い、俺は剣を滑らせた。
「凄い……」
呟くような声がリオンから聞こえた。
「ロイドさん……」
「よぉ、迷宮都市最強。俺のが最強だって教えに来てやったぜ」
カッコつけたはいいが、俺に飛行能力は無い為海面へ落下していく。
探索者の耐久性なら大怪我を負う様な物では無いが、それでもカッコつけたのは台無しになった。
ぽちゃん、と音が鳴り俺はリオンを見上げる。
「なぁ、真から聞いてるからお前の力は知ってる。お前の力、他人に貸し出しできるんだろ? 俺に寄こせよ、俺がそいつを倒してやるから」
どう見てもリオンは満身創痍だ。
武器も防具もどう見ても破壊されている。
対して俺の方は飛行能力が無い。
同じ舞台にも立てず、あの鱗女に勝つのは難しい。
「しかし……」
「何悩んでる。悩んでたら死ぬのが、戦いだ」
俺がそう言うと、リオンは唇を少し噛み締め小さく頷いた。
自分が倒したかった、そんな気持ちが伝わって来る。
部下を何人も持つ俺は、そういう気持ちは分かるつもりだ。
だが、気持ちで力量が変化しない事も誰よりも知っている。
「降霊召喚・四神降臨」
物を媒体にした強化スキルか。
靴に飛行能力が付き、双剣には炎と水の力が宿った。
衣服には……これは傷を自動的に治癒する効果か。
更に全身に魔力とは違う白金のエネルギーが見えた。
万能感とか全能感とか、そう言うのは普段から感じてる。
けど、今はそんな普段よりも更に気分が良い。
「よくやった。そして良く見とけ」
俺に力を託した事で落下して来たリオンと入れ替わる様に海面から飛び出す。
俺の靴はどうやら空中を蹴り、立つ事ができるらしい。
心は激情の中に在れ。
緊張しない程度にキレろ。そして目的を失わない程度に落ち着かせろ。
「戦いってのはな、多少キレながらやるもんだ」
「え……? は、はぁ……」
リオンが難解そうな表情を浮かべているが、知らん。
今は、目の前の相手を見据える。
「空を飛ぶ鱗女は初めて見た。水性モンスターじゃねぇみたいだな」
「私は龍王マリア。寧ろ逆、天空の君主よ」
「お前の話は興味はねぇ。俺はお前等モンスターの事が根本的に嫌いだからな」
「私も貴方が嫌いだわ」
「あっそ」
殺し合いに合図は無い。
ただ、どちらか一方が殺すと考えたその瞬間から問答無用で勝負は始まる。
「さっさと殺そう」
俺は負けない。
勝利する事だけが、人間が何かを手に入れる為の方法なのだから。
「ダブルスラッシュ」
呟くと同時に俺の中の異能が発動する。
スキルと呼ばれるこの力には様々な系統が存在するが、俺に芽生えたスキルたちは例外なく特定の法則で動く。
二刀の刃が相手の首へ差し迫る。
「借り物のクセに、厄介な力だわ」
そう言いながら。
余裕の表情で。
そいつは頭を下げ。
斬撃を回避する。
「クイックムーブ」
加速した体を使い、更に次のスキルへ繋げる。
「アクセルスラッシュ」
動作を加速するスキルと、加速した斬撃を放つスキル。
その同時発動により加速に加速を重ねた斬撃。
右腕に握られた半月刀を鱗女の頭から一気に振り下ろす。
「ッチ」
舌打ち一つ。
同時に鱗女は俺の剣を片腕で受け止めた。
ダメージはある。
血が滲んでいるのが分かるからだ。
しかし、腕を丸太でも余裕で切裂ける威力の斬撃にも関わらず、鱗女のダメージは軽傷である。
「左は炎だったな」
言いながら、俺は左に握った剣を鱗女の足へ向けて横に薙ぐ。
ジュッ!
という焦げる音が鳴る。
だが、その音は脚からの音ではなく鱗女が俺の剣を掴んだ事によって掌が焼けた音だ。
「反応速度、身体能力、魔力量も俺たち人間とはケタが違う。戦術を真似られないから、お前たちは嫌いなんだよ」
「あっそ」
剣に力を込めれば、リオンが宿した神獣の力が膨れ上がる。
爆炎に巻かれながら、俺と鱗女は距離を空ける。
アクセルブースト。
爆炎を煙幕にして、俺は煙の中を突き抜ける。
「アックスキック」
風の神獣の力を利用した上段からの踵落とし。
鱗女の目を見れば、ちゃんとそれに反応している。
速度で振り切るのは不可能。
手数で攻める。
蹴りと同時に剣を逆手に持ち変える。
両腕を頭の上に上げて俺の蹴りを受け止めた鱗女。
その視線が集まるのは上で、下への警戒は薄れる。
逆手に持ち替えた斬撃を両太腿に向けて突き出す。
「無駄」
一言。
そう言った瞬間、俺の手が止まる。
剣が尻尾で絡み取られていた。
「ッチ」
今度は俺が舌打ちし、鱗女の腕を蹴って身体を縦に回す。
同時に剣から手を放し、上昇が落下に反転してから剣を握り直す。
強く握り、神獣の力を解く。
爆炎と生成された水が接触し、水蒸気の爆発を生み出す。
「もう放さないわ」
鱗女は強く剣を尻尾で掴み、距離を取らせない。
このまま攻撃を止めれば、超人的な身体能力と魔力から攻勢に移られる。
リオンのダメージを感が見えれば、こいつが攻撃可能な隙を与えた時点でいつ負けてもおかしくない。
――勝つ事に意味がある。
俺の座右の銘だ。
いつだって、俺は勝つ事で手に入れて来た。
力があれば全てを手に入れる事ができる。
そして、力を手に入れる為に最も必要なのは欲望だ。
「ストレージ」
その効果は、真が持つ収納と殆ど同じ。
だが、スキルレベル的に俺には真の様な莫大な量の物は収納できない。
けれど、『双剣士』のそれは武器を入れる為の物だ。
剣を収納し、即座に出現させる。
拘束は解け、剣が俺の手の中に納まる。
「ダブルチェイン」
簡単に言えば、それは剣戟の威力を上昇させるスキル。
詳細に言えば、それは剣戟に込められた全ての力を増加させるスキルである。
剣に宿った神獣が、さらなる力を手に入れる。
「クイックムーブ、アクセルスラッシュ、ダブルスラッシュ」
俺の探索者としての才能は、身体操作能力。
スキルによる肉体能力の変化を即座に理解し、それを使い熟す事。
力に魅入られた俺は、自らの使えるあらゆる力を理解する能力に長けているらしい。
「速い…………いや違う、多い……!」
幾閃の斬撃が、鱗女を捕らえる。
「お前の速さは最高速度にある。初速は大した事はねぇ」
逆に俺のスキルは、速度の加速率を上げるのではなく速度をプラスする物だ。
初速に限れば、俺はこの女よりも速い。
回避や防御を試みるが、俺の剣は確実にその皮膚を斬りつけている。
だが、手数で挑む俺の剣は攻撃力に欠ける。
それは、探索者になった時からの課題だった。
けど、俺はこれでいい。
双剣士が俺の性に合っている。
「サウザンドスラッシュ」
それが、俺がレベル百で獲得したスキルの名前だ。
千の斬撃を放ち切るまで、俺の剣戟は加速し続ける。
「綺麗な剣だこと……」
何度もそれを見て来た俺は、諦めの表情を知っている。
それは、俺の勝利の合図になる。
「俺に、力を付ける事で妥協した記憶は無い」
俺はマリアを切り裂いた。




