百三十四話 知能
現状の問題は結界が破壊された事だ。
市街地にモンスターが到達するまで時間はそう掛からないだろう。
勿論迷宮都市側の防衛が早々突破されるとは思えないが、それでも残された時間は長いとは言い難い。
【空立】のスキルを使い、空中を走って迷宮都市に向かっているが俺が行ったところで何ができる?
鑑定士は戦闘職では無い。
勇者の力を手に入れた今なら戦えない事は無いだろうが、鑑定士の本来の性質は支援にある。
ゼニクルスがやられたのが大きすぎる。
転移があれば、打てる作戦の数が倍増するのに……
迷宮都市に向かって走っていると、陸が見え始める。
まだ何の建物も作られていない陸地、外縁部だ。
そこで、二人の人影が戦っているのが見えた。
新藤真と相手の人型だ。
現状、何体の人型が居るのかも分からない。
1から3階層まではボスの人型一体だけだったのに、龍人の女に念話をジャックしてきた奴、それに魔物使いとその護衛、最後に今新藤が戦っている奴。
既に四体の人型を俺の眼は捉えている。
急に増えすぎだろ。
さて、まずは新藤を助けて新藤と一緒に迷宮都市の防衛に向かう。
それが最初の作戦か……
「いや……助けが必要そうには見えないな……」
――
神気と詐欺を併用した私の【神言】は、神気が枯渇した現状では使用できない。
だが、それは使う必要が無いと私が判断したのだ。
「貴方は何なんでしょうか?」
「フゥ、それを我が答える必要があるのか?」
「いいや、少し貴方方の事を知りたくなりまして。なんでこんな非効率的な方法を取るんだろうかとね?」
「全ては我らの魔王がお決めになった事である。貴様が口を挟む余地はあるまいて」
「今、迷宮都市と貴方方が放ったモンスターの軍勢は戦っています。規模を考えても戦争と言って差し支えない大戦です。ですが、可笑しいとは思いませんか?」
「可笑しい? 強き者が弱き者を挫く、それが自然の理だ」
「ふむ、知能を持ってる割に余り頭は良くないらしい。貴方は戦争が何で起こるか知っていますか?」
煽る様に、朔間疑徒は悪魔ヴァルキリアへと質問を投げかける。
「奪う為だ。そして支配する為」
「違いますね。戦争は金のために行われます。昔はこの世界でも良く戦争が起こっていました。人間同士で。でも今の時代は、戦争での死者は激減した。戦争自体が減ったから。この世界には数百の国があるのに、なんで戦争が減ったのでしょうか? 貴方が言う支配する事が目的なら、全く支配できてないのに減るのは可笑しいでしょう」
「……何が言いたい」
「その土地が保有する資源の所有権を争う事。それが戦争という戦いの意味です。しかし、迷宮都市を陥落させたところで貴方方にメリットがあるとは思えない。だから、何を利得と考えて貴方方は今、ここに居るのでしょうか?」
昔は人的資源という言葉があったが、今の七十億人以上は地球の大地を踏みしめる現状では、人が足りないなんて事はあり得ない。
金を生む資源が、土地が保有する物ではなく個人の技能やデータ上に存在する為、戦争は減少した。
勿論、核兵器などの抑止力の存在も考慮されるが、戦争をしても利益が出なくなったというのが世界から戦争が消えた主な理由だった。
今は、経済戦争の時代になった。
けれど、そんな世界のそんな時代にダンジョンから現れたモンスターは人に戦争を仕掛ける。
今までは、知能を持たないモンスターが本能のままに街や人に被害を与えていると思われて来た。
けれど、それは間違いだ。
なぜなら、私の目の前にはどうみても知能を持っているモンスターが存在し、彼らが知能を持たないモンスターを操って見せている。
何が狙いか。
色々と考察はされて来た。
向こう側の食料問題、惑星や世界その者への侵略、人を殺す事が欲求に組み込まれている。
それとは、彼ら固有の何かしら必要な資源がこの世界に存在するのか。
「何故、貴方たちは人間を攻撃するのですか?」
「それが魔王様の御意思だからだ」
この悪魔に聞いても答えは分からなさそうだ。
聞くなら、その魔王という個体だな。
「何も教えてくれる気が無いという事が分かりました。それでは――戦いましょうか?」
人を騙す上で最も必要な事は何か。
観察眼でも、人心掌握の方法でも、催眠術でもない。
人を騙す上で最も必要なのは、統計だ。
誰も人の心なんて分からない。
それが結論で、それ以上の答えは存在しない。
少なくとも、現在までのテクノロジーでは脳汁の分泌量や電気信号の解析で喜怒哀楽を何となく感知する程度がやっとだ。
まぁ、天空さんは知らないけど。
けれど、人間は人間らしい行動を基本的に取る。
どれだけサイコパス染みた人間でも、局所的に逸れる事は合っても、殆どが合致しないという事は少ない。
後はタイプの問題だ。
性格と言い換えてもいい。
倫理観や正義感、思考法則を会話から導き出し、それを当てはめ信用を得られる嘘を選ぶ。
「勇者として、貴方を迎え撃とう」
「うむ、手合わせ願おうか」
詐欺師として、私は貴方を迎え撃とう。




