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百三十三話 破城


 避難警報という物が迷宮都市には存在する。

 避難警報の種類は二種類で、音の性質によって災害の種類が分かれる。

 一つ目は自然災害や外的な被害が予想される場合。「ウーウー」という様な音が鳴り響く。

 二つ目は迷宮都市中央にあるワダツミに関連した被害が予想される場合。「ピーピー」という様な音が鳴り響く。


 二種類の警告は住民の避難場所を分ける為に存在する。

 ワダツミ以外の被害の場合は、警報が鳴る区画の住民は都市中央の総合ギルド本部とその周辺ホテルへの避難を行う。

 ワダツミの被害の場合は、外縁部分にある避難所への避難が求められる。


 ワダツミという特級の危険物がま隣にあるこの都市では、そう言った避難に関する取り組みは盛んにおこなわれていた。


 そして今日、始めて訓練では無い本物の警報が鳴り響く。


「申し訳ありません」


 白髪の少女が、この都市の長へ謝罪の言葉を投げる。


「いいえ、貴方の責任では無いわ」


 その謝罪は、結界が破壊された事への懺悔だった。


 街中に警報が鳴り響き、避難民が総合ギルドの本部ビルに集まって来る。

 訓練の賜物によって、道路には幾つもの公共自動車、タクシーやバスなどが奇麗に動き回っている。

 それら全てが避難民を乗せ、この場所に集結しているのだ。


 蘇衣然には街中から電気通信によって、様々な情報が一気に押し寄せて来る。

 それら全てを同時に処理する能力は人間には無い。

 故に、彼女は必要不要を分け自分が真っ先に取り組むべき物を発見する事へ意識を向ける。


(念話ができない以上、分かる範囲で人員の分散を把握する。アナライズアーツの松玲十郎はモンスターを止める為に百名以上を連れて迎撃に向かった。千宮司剣はこのビル内にまだ居る。天空君とリオンさんは行方不明、新藤真はモンスターの迎撃に向かったけど止められなかったのを見ると、負けた? いや、負ける程追い詰められるならジャックされるの覚悟で念話を使うはず。って事は戦闘中ね…… 今私が使える上位探索者は聖名守凛佳、千宮司剣、それに神剣を持つ倉持秋渡、後はAランク相当が数名か……)


 状況は良いとは言い難い。

 敵勢力の確認すらままならない状況なのだ。

 こちらの戦力を把握したところで、勝てる算段が経つ訳でも無い。


 そんな時だった。


(報告。敵モンスターは総勢二万五千。うち、三千は新藤が撃ち落とした。内訳はBランク一万、Aランク一万五千、推定Sランク以上が4体。種族は竜種、デーモン、霊体モンスター、アンデッド。敵総大将は『魔物使い』だ)


 それは間違いなく、天空秀の声だった。

 念話によって話した言葉は、相手にとっては最初から知っている殆ど意味の無い情報。

 しかし、蘇衣然からすれば今最も求めていた情報。


「流石は鑑定士、と言ったところかしら……」


「天空さんですか?」


「えぇ、敵の情報を教えてくれた」


 蘇衣然の思考が回る。

 天空秀は相手のボスを『魔物使い』と言った。

 探索者でもそれらしいクラスを持つ者はいる。

 ダンジョン内のモンスターを何らかの手段によって意のままに操る者達である。


 それが、敵で、規模は数万。

 魔物使いとしては破格の性能だろう。

 しかし、魔物使いは本体が余り強くないという弱点も持っている。

 問題はSランク以上のモンスターの存在。

 これが四体という事は、新藤真もそれに阻まれている可能性が高い。


 そこまで推察し、蘇衣然は静かに目を開く。


「聖名守さん、貴方は新藤君の所へ向かって。勇者と聖女が一緒に戦えば、多分新藤君も手が空くだろうから。速く倒して早く次のSランクを相手して。その間、私たちは全戦力を搔き集めてモンスターの大群を止めるわ」


 前代未聞のスタンピード。

 けれど、その中で一つ希望があるとすれば、モンスターが一体の司令塔を中心に統率を持って戦っているという事だ。

 発生から全世界に飛び散られでもすれば、どれだけの被害になるか予想もできなかったが全てのモンスターが迷宮都市を目指していると言うのであれば、全て迎撃してしまえば他国に被害がでる事も無い。


「了解しました!」


 聖名守凛佳が部屋から出ていくと、入れ替わる様に一組の男女が現れる。


「私たちも協力させて下さい」


「俺も再戦しねぇ訳にはいかねぇ」


 吸血鬼と龍人が、鋭利な牙を剥いて立っていた。

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