百三十二話 聖女の苦悩
儂はビルの屋上から迷宮都市を眺めておった。
屋上に居るのは儂だけでは無く、聖名守凛佳という少女や同じギルドの浜村耶散嬢、後は儂が預かっている探索者の部隊の者と別ギルドから来た警備が合計百名程居る。
現在、迷宮都市全域で厳戒態勢が取られていた。
ここでは、迷宮都市を完全に覆う対魔法結界と物理結界の発動と制御が行われておる。
儂らは結界を起動している探索者の警護である。警備にはギルド『千剣の盃』も参加しておるが、千宮司剣は結界を張ってから30分もすると「ダルッ」と一言言ってビルの中へ入って行ってしもうた。
「ヒマじゃな……」
ただ、儂も千宮司の意見には同意するところである。
儂らの大将によれば、この戦いは既に勝ちの決まった戦であるらしい。
新藤真によって計略は練られ、相手も名ばかりの大物で実力は大した事は無い様子である。
そんな事前情報を聞いてしまえば欠伸の一つも出てしまうと言う物であろう。
「私のために申し訳ありません」
そう言ったのは聖名守凛佳であった。
「何を言う。この任務は我が主から仰せつかった物だ。お主が謝るような事は何もあるまい」
「でも、お暇そうです」
「それは仕方なかろう。儂がする事はここでお主を守る事とは言っても、何かがここまで襲ってくる様な危機は無いと主からも言われておる」
「はい。私も真君から今回はすぐ終わると聞いてます。なので少しお話しませんか?」
「良いぞ。儂も暇をしていて所じゃ」
「では、天空さんの事を教えてください。私は真君のお話をします」
「なるほど、確かにあの男には興味がある。少し儂の所のマスターに似ている所があるからな」
「そうなんですか? まぁ、どっちも『勇者』ではありますけど」
「そうじゃのう、気骨というか二人とも向上心に溢れているじゃろ?」
天空秀は、レベルという力を手に入れて尚、『剣術』という更なる力を手に入れるべく玲十郎に教えを乞うた。
新藤真は、聖名守凛佳を想い続け、世界最高のギルドを作り詐欺師として天才的な手腕を発揮した。それは努力無く達成できるような道筋とは言い難い。
「確かに……」
何かを思い出したかのように、少女は天を仰ぐ。
「そう言えば、勇者になるには聖女の接吻が必要だったらしいのう」
儂がそう言うと、ボッと彼女の顔が赤く染まった。
「な、なな……なんで知ってるんですか!?」
「主が言って居ったぞ」
「あの人……」
「リオン嬢も中々初々しかったが、お主も相当に純粋じゃのう?」
「しょうがないじゃ無いですか。お付き合いの経験なんてありませんし」
「ふむ、まだ恋仲という訳では無かったんじゃな」
「え?」
「迷宮都市中で勇者は聖女と恋仲と噂されておるぞ」
「え?」
二度、彼女は面白いように全く同じ反応をした。
「雑誌やねっとという奴でも、かなりお主等の記事があると主と新藤真が話しておったんじゃがのう」
「そ、そうなんですか。……なんか凄く恥ずかしくなりました」
儂もその記事を少し見たが、仲睦まじい雰囲気が溢れる写真が掲載されてい覚えがある。
それを見て寧ろ恋人では無いと思う方が難しいじゃろう。
「真君、それ知ってどう思ったんだろ……?」
「そりゃ……」
儂が言いかけた瞬間、『ガキン!』と何かがぶつかるような巨大な音が都市に響いた。
「え!? 結界に何かが突撃してる?」
結界を維持している彼女がそう言うのだから、それは間違いない事なのだろう。
ビルの屋上から迷宮都市の様子は良く見える。
聖女が驚きながら向いた方向へ視線を移すと、そこには何百体もの羽ばたく飛竜が浮いていた。
「どうやら、不測の事態という奴のようじゃな」
「なんでモンスターが外に……」
「お主等は儂等が守る。安心せい」
「はい……」
不安そうな表情を浮かべる聖名守凛佳を守る様に、儂の部隊の者達を警戒態勢で展開させる。
飛竜は結界を破れば迷宮都市に甚大な被害が出るじゃろう。
それは我が主の望むところではない筈だ。
「儂らも撃って出るぞ!」
そう宣言し、千剣の盃の者達を警備に残し儂らは飛竜の方へ走る事にした。




