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百三十話 勇者出陣


 それは唐突だった。

 俺は蘇衣然を通して迷宮都市全域に散らばった探索者達に指示を出していた。


 この戦いは始まる前から勝ちの決まった戦いだった筈だ。

 金と暇と権力を持て余した老人の最期の遊びに付き合ってやる程度の話だった。


「なんで……」


「これは、少し不味いかしら……」


 どうやって、どんな方法を用いてこの量のモンスターを召喚した?


 召喚や使役の能力を持つ探索者は確認されている。

 しかし、それは数体前後の話であって俺の視界を埋め尽くす量のこの飛竜たちは数千、いや数万に上る。


「何を呆けているのかしら」


 総合ギルド内の七十解建てのビルの最上階からドラゴンを目視した蘇衣然は、俺にそう言った。


「新藤真」


 この街の王が俺の名を呼ぶ。


「貴方に出陣を命じるわ」


 この異常事態であっても、その人は冷静に俺にそう言い放った。


「勇者、なのでしょ?」


 勇者の力を手に入れてから俺はこの力の制御と強化に心血を注いだ。

 何度もダンジョンに入り、何体もモンスターを狩ったのは、神気という力を分析し活用するためだ。

 その力を使うとすれば、確かにこれ以上の舞台も無いな。


「念話は常に繋いでおきます、何かあれば知らせてください」


「分かったわ。貴方に情けをかけたあの子に恩を返しなさい」


 そうだ。俺はあの人に許された。

 大変な事をして、甚大な被害を出して、あの人の大切な物を巻き込んだのに。

 なのに、あの人は俺を許して使っている。


「――了解」


 だったら、俺はその恩を返さないといけないだろ。


 装備を持って、俺はビルの外へ出た。



 ◆



 向かう先は決まっている。


 俺に出来る事は、この力に目覚めた時から変わらない。

 けれど、神気が宿った俺の言葉は一段階上の言葉を持つ。


「お前が指揮官か……!」


 迷宮都市のまだ何も建てられていない建設予定地区まで、相手が入って来てくれた事で足場はある。

 敵は浮いているが、遠距離攻撃なら俺も持っている。


 魔石武器に刻まれたスキルの一つ。

 充填チャージ。そこに神気を込め、撃ち放つ。


 ドラゴンとデーモンの軍団。

 しかも、よく見るとドラゴンの背中にはゾンビやスケルトンと言ったアンデッドが跨っている。

 その中に三体の人型を見つけた。

 ユースの奴、一体何をしてこんな化物を召喚したんだ。


 観察。鑑定士と同じスキルであり、詐欺師の俺が覚えたスキル。

 それは相手の力の動きを可視化する。

 ただ、それで分かったのは三体の内二体が内包する圧倒的な量の魔力だった。


「そんな野暮な名前は辞めてくれ。これでも『魔王』を名乗っているんだ」


 魔力の少ない、いや一切感じないと言っても過言ではない程少量の一体が俺の言葉にそう答えた。


 俺が放った初撃はそいつの脇に立って居る一体、ローブを纏った骨の人型モンスターに阻まれる。

 こいつは他のスケルトンとは魔力の規模も威圧感も段違いだ。

 ワダツミの階層主を務める人型と同列に考えた方が良いだろう。


 しかも、それが二体。

 加えて、真ん中の奴は魔王とか名乗ってる以上只者じゃ無いんだろう。


「勇者ね……俺には重すぎる名前だな……」


 スケルトンじゃない方の人型は、天空さんのゼニクルスに似ている。

 全身を体毛が包んでおり、頭に羊の様な角があり、瞳は赤く輝いている。

 こっちも尋常じゃない魔力量だ。


 勝てるビジョンが全く見えない。


「なぁ……」


「ほぉ……?」


 幻影のスキルを発動させ、姿を偽る。

 新藤真の姿から、朔間疑徒の姿へと。


「私は今まで負けた事がない、あらゆる目的を達成して来た」


 俺が抱いた唯一一点の目的は、聖名守凛佳を救う事。

 その目的が達成された時点で、俺は勝利者になった。


「そして、私を勝たせたあの男のために私は負ける事ができない」


 私の力は所詮虚言だ。

 相手に言葉を信じて貰う必要がある。

 相手に虚言である事がバレた時点で発動しない。

 モンスター相手には使えない。そんな探索者としては全く使えない欠損能力だった。


 だが、今の私は少し違う。


 あの時は、あの男の目を利用する為の戯言だった。

 しかし今の言葉は戯言を本物に近づける。


 詐偽+神気操作。


 今の私に言葉には強制力()が宿る。


「神言【――止まれ!】」


 言葉に乗った神気が相手の脳へ音として侵入し、私が込めた命令をその脳内で強制的に実行させる。

 故に、言語の壁は存在せず、知能の差は問題なく、虚実は事実へ姿を変える。


「俺の命令を上書きしたのか……」


 私の言葉が届いた全てのモンスターがピタッと停止する。


「魔王様、ここは私目にお任せを」


「あぁ、俺とマエストリアは先に行く。頼んだぞヴァルキリア」


「御意に」


 悪魔の様な人型が地面に足を付ける。


「人間よ。お前はこれで一安心だ、とでも思っているのだろうか」


 ヴァルキリアと呼ばれた悪魔は、私にそう言った。


「何……?」


「魔王様と貴様では、力の格が違い過ぎる」


 そう言った瞬間、『グギャアァァァアア!』という方向が鳴った。

 それは私の言葉で停止していた筈のドラゴンの絶叫だ。


 なんで……そんな疑問が頭に浮かんだと同時に悪魔が名乗りを上げた。


「我は魔王軍最高幹部第二席次、悪魔将軍ヴァルキリア。それがお前を殺す者の名だ」


「私は朔間疑徒、特別お話するような事はありませんね」


 幻影の私は冷静な表情に努めながら、そう返答する。


 ヴァルキリアが剣を抜いた。

 それは大剣のように巨大だが、ヴァルキリアはそれを片手で握っている。

 それが二本。


「貴様の相手は我がしよう」


 悪魔、デーモンは種族的に魔法に優れる存在の筈だ。

 それが近接戦闘だと?


 神言は強い言葉を使う程に消費する神気の量が増える。

 だから、この量の大群に使うには『止まれ』程度が限界だった。

 しかし、それが通用しない以上、もっと攻撃的な言葉を使うしかない。


 この悪魔には神言は効かない。

 魔力のプロテクトが雑魚とは段違いだからだ。

 つまり、モンスターの大群を止める為に神気を使えば、この悪魔に神気は使えなくなる。


 いや、悩むような問題じゃないな。

 私の目的は街の防衛。

 ここで、止められるだけ止める。


 収納の指輪から、拡声器を呼び出し天空へ構える。


「神言【――落ちろ!】」


 身体に残った全ての神気を消費し、拡声器に言葉を乗せる。


 それで、大群全てを無力化するには至らないしやはり人型には聞いていない。

 だが、それでも半分近くのモンスターが落下して地面に激突した。


「自分の身を削ってでも街を守るか……」


 悪魔が、俺をジッと見つめて来た。


「どうして、邪魔をしなかった?」


「勇者という物を見て置きたくてな」


「そんな大層な物では無いよ。私なんてその半分にも及ばない」


 モンスターの大群を止め、この悪魔を倒す。

 それが私の仕事だ。

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