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百二十四話 スパイ


「ユース様、御来客です」


「あぁ、誰だ?」


 迷宮都市の一角にある大きな屋敷の中で儂はそう返事をした。

 儂はユース・D・ヒーステレス、この世界で最も力を持った存在とでも言えばいいだろうか。

 自室の執務室に入って来た一人の使用人が、儂に来客を告げた。


「ロイド様です」


「フン、やっと来たか」


 儂が「部屋に通せ」と使用人に言うと、彼は一礼して下がる。


 数分後、ロイド・B・マルクスが部屋に現れた。


「ようジジイ。なんだよ急に呼び出しやがって」


 部屋に入って来たロイドはぶっきらぼうな挨拶の後、直ぐに部屋の中心にある四人用の席へ腰を掛けた。


「嫌なに、お前の所のギルド中々成績が良い様じゃないかと思ってな。ま、それも儂が融通したお陰ではあるが」


「へいへい、ジジイの話は長くて行けねぇな。さっさと本題に入れっての」


「まぁ聞け。ロイド、この世界で最も強い力とは何だと思う?」


「はぁ……俺は剣を振って来た。それ以外は正直興味がねぇな」


「だが、そんなお前も今は儂の下で聖リント教会へのスパイとして活動しておる。それはつまり、その剣の腕は既に儂の物だという事だ」


 儂は世界各地にある強力な組織と強いつながりを持っている。

 探索者ギルド、政治家、宗教団体、世界中の殆どの機関には最低でも一人以上の儂のスパイが居り、儂が所得できぬ情報は極めて少ない。

 このロイドも、儂が聖リント教会へ送り込んだスパイの一人なのじゃからな。


 この世で最も強い力は、戦いの技能でも経済力でも権力でもない。

 この世で最も強い力。それはあらゆる物を利用(Use)する力である。


「その話は聞き飽きたっての。あんたが凄いのは分かったから、さっさと呼び出した用件を言ってくれ」


「ほっほ、良かろう。ロイド、儂があらゆる国の政府や権力者と通じている事は知っているな?」


「あぁ」


「そして、あらゆる裏の組織と通じている事も承知しているな?」


「あぁ」


「儂はついに行動を起こす事にしたのじゃよ」


「へぇ……どんな?」


「迷宮都市を陥落させ、その全ての権利を儂が手に入れる。来年の都市長は儂じゃ」


 儂は今まで表舞台には極力姿を現さない様にしてきた。

 それによって富を築き、権力を高め、人材を集めていた。

 しかし、そんな人生のまま既に齢は60を越えた。ここまで来て、儂が思った事は『歴史に名を残したい』という事じゃった。


 それが儂の最期の願い。

 達成のためには今まで儂が築き上げた全てを使う事にした。


「なるほど、それで俺にも手伝えって事か」


「あぁ、お前は紛いなりにも世界最大ギルドのナンバー2だ。儂が育てて来た者の中でもかなり上手くやった方だろう」


「かもな……良いぜ、命令された事はやってやる」


「ふむ、ではまずは朔間疑徒を殺しお前が聖リント教会を乗っ取れ」


「了解」



 ―――



「って事らしいが、どうするよ」


 私はロイドからそんな相談を受けていた。


「あのお爺さんにも困った物だな……」


 ユース・D・ヒーステレスは名家の家に生まれ、あらゆる国の政界に繋がるパイプを父親から継承した。

 彼はそれを最大限活用し、最大の利を出したと思っているのかもしれないが、彼が人生でやって来たのは『パイプを守る』という事だけだ。


 しかし、彼がテロリスト集団や殺し屋の組合と通じていると言うのも本当である。

 けれど、今回の目的は相手が悪すぎる。迷宮都市には最高の探索者が集まっているため、他の国からどれだけ戦力を集めたとしてもSランクギルドを始めとした様々なギルドが迷宮都市側に回れば勝ち目は無い。


 まぁ、聖リント教会を作るにあたってロイドを通してヒーステレス家の権力を一部利用させて貰ったから、余り悪くは言えないが。


「なんで死にぞこないのジジイがんな事やろうとしてんだかな」


「後世に名前を残したいとか、そんなところじゃないかな。あの人はその程度の事しか考えていないよ」


 ロイドは私が朔間疑徒になる前、新藤真だった時から付き合いだ。

 簡単に言えば、ロイドと私の付き合いはロイドとユースの付き合いよりも長く、ロイドの役割は二重スパイである。


「で、どうするよ? お前を殺せだとよ、俺としてはお前と戦うのも悪かねぇんだが」


「いい加減にしてくれ、私がロイドに勝てる訳が無いだろ」


「勇者の力を使ったら分からないだろ?」


「勇者の力は押し合いに強くなるだけ、単純な技量が全く足りていない事を私に短剣術を教えたお前ならよくわかっているだろ」


「だな……もう少し勇者の力が育つまで待った方が面白そうだ」


 あのお爺さんの狙いというか読みでは、自分のパイプを限りなく使って武力を集めれば迷宮都市を落とせるという計算だろう。

 私も天空秀が居なければ、それでも問題ないと思ったかもしれない。


 けれど、この都市には彼が居る。

 リオン・エヴァの神獣、二人の勇者と聖女、最高峰の鍛冶師の作った武具、そしてBランク以上の探索者の総数。


 全てにおいて、迷宮都市は他の国に勝っている。

 国家規模で軍隊でも送って来るなら話は代わるが、あのお爺さんがどうこうできる戦力など数万人規模のテロ集団ってところだろう。

 探索者として相応のレベルを持つ者も居るだろうが……話にならないな。


 天空秀がゼニクルスを召喚し、蘇衣然を隠すだけで勝ち目は消える。


「まぁ、あのお爺さんとその家の権力ももう邪魔でしかないか。分かった、潰そう」


「了解。それで、シナリオはどうするんだ?」


「取り合えず、私が死のう」


「了解」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >「勇者の力は押し合いに強くなるだけ、単純な技量が全く足りていない事を私に短剣術を教えたお前ならよくわかっているだろ」 私に短剣術を教えたお前なら単純な技量が足りない事はよく分かって…
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