百二十一話 第四階層
ワダツミの攻略者名簿は現在こうなっている。
第一階層攻略者 橘修柵。
第二階層攻略者 橘修柵。
第三階層攻略者 アナライズアーツ及び聖リント教会所属の探索者たち。
おかしな話だ。
その二つのギルドはこの五年以内に新規に立ち上げられたギルドなのに。
じゃあ、昔からあるギルドと最近増えたギルドでの違いは何か。
単純な話だ。
レベルが、圧倒的に違う。
では、何故レベルが違う。
昔からあるギルドは怠惰なのか?
いいやそんな事はない。日夜ダンジョントラベルを繰り返し、レベルも連携力も技量も向上に努めている。
答えは単純だ。
方法を間違えていたのだ。
この世界はゲームじゃない。この世界はロールプレイじゃない。この世界は単純じゃない。
ただモンスターを殺し自身のレベルを向上させる。それだけでは足りず、その方法は最適では無かったそういう話だ。
鑑定士。
操縦士。
生産職。
ダンジョン発生から五十年。
人類は経験値を効率的に得る方法を取得していく。
その転換期が今だった。そういう話だ。
「噛むわよ」
この世には二種類のクラスが存在する。
一つは人間が定めた『職業』を表したクラス。
もう一つは生まれながらの『種族』を表すクラス。
「あぁ、やってくれ」
セブン・レッドが露出させた首元に黒峰静香が歯を立てた。
静香の中にドラゴノイドの血液が混じる。
セブンの中に吸血鬼の血液が混じる。
『簡易クラス強化』
『種族昇華=条件達成』
『モード=吸血龍』
『モード=ドラキュリア』
二つの別種の遺伝子が混ざり合う事による、転種。
いや、それは明確により上位の存在への昇華、開花、クラスアップ。
第四階層。
闇夜に浮かぶ満月の階層。
雲一つない星の川が、空を彩る宝石にも見える様な美しい階層。
けれど、一度下へ、地面へと視線を向ければおどろおどろしいとでも表現するべきモンスターたちが地を蠢いている。
アンデッド、デーモン、イノセント、ドラゴン。
その四種族という縛りはあるが、それでもその中の様々な種が跋扈する階層。
それが第四階層の構図だ。
「行くぜ」
「待ちなさい」
「あ? 何だよ」
「私も行くわ、乗せて行って」
「オーケー」
セブンは背中から蝙蝠の様な翼を広げ、黒峰静香を抱え飛び立った。
ドラゴノイドはスキルによって様々な属性に変化、身体の形状を変形させる。
では、そのスキルとは何の事を差しているのか。
そもそもレベルとは何か。
クラスとは何なのか。
人類が50年抱え続けた疑問で、これから先も答えはきっと見つからない難題だ。
少なくとも物理法則だけでは正解に至れない。それこそ、答えを直接知る様な眼でも無い限り知る事はできないだろう。
だが『ドラゴノイド』というクラスに限って言えば、レベルとスキルは明確な身体機能として表れる。
スキルは『ドラゴン』という幻想存在にどれだけ近づけるか。レベルとはその出力がどれほど向上しているか。
ならば、『ドラゴノイド』のスキルを増やす方法はレベルアップ以外にも存在する筈だ。
それが黒峰静香が組み立て実践しているクラス理論の一つである。
方法は単純、『吸血鬼』はレベルアップによって血液の質が上がる。
最大密度や操作性といった、血液をスキルで操る場合の血液の位が向上する。
それは吸血鬼というクラスを持つ黒峰静香の血が、本物の吸血鬼の物であるからだ。
吸血鬼は眷属を増やす。
それはゲームや漫画でも取り上げられる、吸血鬼の基本的な能力の一つだ。
そして、眷属になった人間はダンピールと呼ばれる混血種に生まれ変わる。言うなれば、種族の変質だ。
では、黒峰静香がレベル150に至った事で新たに獲得した『眷属化』というスキルを使い、ドラゴンと吸血鬼の混血を作った場合、結果はどうなるのか。
「実験は成功したみたいね」
結果は簡易クラス昇華という未だ誰も知らない状態の獲得。
ステータスを見ればスキルも書き換わっていた。
黒峰静香自身も恩恵を受けられたのは予想外だったが、都合の良い予想外だ。
「それじゃあちょっと暴れてみるか!」
スキル『ドラキュラファング』。
その口で噛みつかれた存在は、高い毒耐性を持たない限りダンピールとしてセブンの言いなりになる。
ドラキュラファングは一度発動させると牙が尖っていく、その状態をキープする事で効果は自分で解かない限り永続的に発揮される。
「私も付き合うとしましょうか」
スキル『夜紛』。
影の中に入り込み、姿を隠す。
影が繋がっていれば、泳ぐように移動する事も可能。
更にスキル『血爪』。
その爪によって切り裂かれた傷は、血を凝固させる機能を停止させられる。
血を操る黒峰静香にとっては、それを相手の足下の影の中から突くだけで必勝の戦法となる。
二人のAランク。
いや、今や黒峰静香はレベル的にはSランクに至っている。
それにセブン・レッドもAランクの中ではかなり上位に位置する探索者だ。
そんな二人が人類未発見だった新たな力を目覚めさせ暴れている。
第四階層はその二体の幻想種族によって、モンスターにとっては天災と見まごうばかりの地獄へと変貌し始めていた。
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