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百十五話 仇


 何故、あのタイミングで橘さんが現れたのか。

 運が良かっただけと言ってしまえばそれまでだが、しかしあそこまで都合の良い偶然がそんな簡単に起こるのだろうか。


 理由は結局簡単だった。

 橘さんの目的は最初からその奥さんの事だ。

 最初は生き返す事だったが、色々あって火葬された橘さんにそれを叶える術は既に無い。


 橘さんが俺にレベルを託した理由は、奥さんの死体をきちんとあるべき場所へ戻して欲しいという現れだったのだ。

 そして、俺に経験値レベルを託した。


 第三階層階層主であるアンデッドクイーンは今から軍の再編成をするだろう。

 橘さんの能力によって操作可能なアンデッドの数を拡大していたのだ。その橘さんが居なくなった以上、今まで従えていた全ての死霊軍団をそのまま全て支配下に置き続ける事はできない。

 戦力的に上位に位置するモンスターや探索者の死体を厳選するのが自然だ。


 だが、それを待って居れば橘さんの奥さんの死体は操作対象外なのは確実だ。

 探索者ですら無いのだから。

 だから、その死体を奇麗なまま取り戻そうと思えば、今このタイミングで仕掛けるしかない。

 それに、橘さんが居なくなった事で戦力が整っていない今こそが最大の隙となっている筈。


「って事だ……」


 俺は一通りの説明を新藤に話した。


「なるほど、更に勇者や聖女の力も加わればアンデッドクイーンまでその矛を届かせる事も可能だと」


 新藤は顎に手を当て一通り考えた後、そう言って頷いた。


「分かりました。俺も協力しますよ」


 アンデッドクイーンのスキルの特性上、死霊軍に加えるにはその対象にある程度近づかなければならない。

 しかし、軍団の運用方法的にある程度各地に軍を分散させている。それを全て周り、支配し直すにはかなりの時間を有する筈だ。


 なら、今の迷宮都市の戦力でこの第三階層を限りなく軽度の被害で攻略するにはこのタイミングが最適だ。


「別に、聖リント教会に協力して貰う必要は無いよ。ゼニクルスが居るから、俺のギルドの人員は直ぐにでも連れてこれる。もう念話で準備も済ませてるからな」


「詐欺師にも念話のスキルがありましてね、私も迷宮都市の事務所に連絡は通してます。そちらの精霊を転移魔法をお借りできるのなら、彼らをアナライズアーツの事務所に向かわせますが?」


「いいのか? 確実に勝てるって決まってる訳でもないぞ?」


「私は探索者と言うには、先日登録を済ませたばかりの新米ですが、それでも探索者の仕事が死と隣り合わせであるという事くらいは知っていますよ。それに、『貴方が勝てると判断した』というそれだけで通常の探索者にとっては限りなく高い成功率を意味しますから」


 新藤真は、朔間疑徒の姿へとその姿と声を変質させ俺にそう答える。

 つまり、この言葉は新藤真という勇者としての言葉では無く、朔間疑徒という一人のギルドマスターとしての言葉という事なのだろう。


「……それに、最後に一花咲かせるのも悪くないでしょう?」


 この戦いが終われば、新藤真は探索者用の刑務所に入る事になる。それがロランス・モローを秋渡に嗾けた責任で、俺を殺そうとした償いなのだろう。

 こいつの性格的に、多分牢を物理的に破れるとしても出てくるような事はしないと思う。

 だったら、ここが新藤真という生まれたばかりの『勇者』の最期の戦場になる。


「…………」


 聖名守凛佳は俺と新藤の会話を少し悲しそうに見ている。

 それでも何も言ってこないのは、勇者決めという呪いが解けた事で常識的な判断が可能となったのだろう。

 それに、俺というもう一人の勇者が居る以上、聖名守凛佳に聖女としての役割を強制している何者かが新藤に拘る必要もなくなったという訳だ。


 余り、良い悪いで人を判断するのは好きでは無い。

 けどこの場合、俺の倫理に従って悪を定めるとするのなら、本当に悪い奴は聖名守凛佳でも新藤真でも無く、聖女を聖女として生まれ落としたどこかで見ている誰かだと思うんだがな。


 まぁ、それを言ってもきっとこの2人は自責の念に駆られるのだろうけど。


「分かった。それじゃあ聖リント教会の探索者にも協力して貰う。ゼニクルスで転送するから、アナライズアーツの事務所に向かわせてくれ」


「了解しました」


 新藤真(朔間疑徒)は返事をして直ぐに耳に手を当て通信を始めた。

 その姿は慣れた様で凛々しい印象を受ける。何というか、清水さんや斉藤さんに事務を全部丸投げしている俺がなんか非難されてる気分になる。

 適材適所だから。俺は俺でほら色々仕事してるから…… 今度お礼を言っておこう。


「1時間で全員ここに集合させる」


「了解。その様に手配しましょう。感覚ですが、神気の生成量は大体毎時3割って所なので、1時間後には最大値ですね。問題は階層主に当てる戦力ですが……」


「あぁ、取り合えず俺とお前は確定だ。うちのリオンは殲滅に優れるから雑魚を蹴散らしてもらう。それと玲十郎を階層主(ボス)に着ける。あいつは下手なSランクより強いからな」


「なら、こちらは支援に優れるメイに階層主以外のモンスターへ対抗する軍の指揮系統を委任。最大戦力のロイドを階層主に当てましょう。どうせあの男は足止めなんて本気でやってないでしょうから疲れても居ないでしょうし」


 アドリブ全開の作戦だと言うのに、この男からはどんどん状況に対して最適な解法が流れ出て来る。

 ギルドマスターとしての歴の違い。いや、体術もある程度収めていた様に『できる事をできる限りやった』というあの言葉に嘘が無かったという事なのだろう。


 私事で動くなと2年半前に教わった。

 だけど、橘さんを殺した階層主は絶対に殺す。

 私怨ではあるが、第三階層を攻略するという大義と、そして今こそが最高のタイミングであるという理由がある。


 ――今なら良いですよね。


(話は理解したわ、総合ギルドも支援しましょう。さっさと攻略して来なさい)


(了解!)

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