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コラボ企画[空翔ぶ燕]作品

サクラの葉書

作者: 葵枝燕

 こんにちは、葵枝燕です。

 この作品は、空乃 千尋様とのコラボ企画となっております。空乃様撮影のお写真をお題に、葵枝燕が文章を綴る——題して、[空翔ぶ燕]企画です。企画名は、僭越ながら私が名付け親です。一応、由来があるのですが——長くなると思うので、後書きで披露させてくださいませ(今回第四弾なので、前回までの作品からご覧の方はご存知かと思いますが、はじめましての方もいるかもしれませんので、ご理解のほどよろしくお願いいたします)。

 そんなコラボ企画第四弾の今回のお題が、「桜(二〇一七年四月十五日)」です。本文の中間に入っている写真が、お題として提供いただいたものとなっております。

 あたたかで少しほろ苦い、そんなお話になったかなと、個人的には思っています。

 本文中間に、写真が入っております。ぜひ、合わせてお楽しみくださいませ。

 ランドセルをカタカタ揺らし、()()()は自宅の門をくぐりかけた。くぐる直前、思い直したように立ち止まり、門柱に鎮座している一対のシーサーに、ちょこんと頭を下げてみる。我ながら、子どもっぽすぎる行動だと思った。しかし、それでいいのだとも思った。桜咲香も、もうすぐ十二歳になる。子どもでいられる時間は限りなく少ないのだと、なんとなくは理解していた。

 沖縄県出身の母の実家に来て、もうすぐ一ヶ月が経とうとしている。季節は、長い夏を迎えようとしては、寒さをぶり返し、四月も半ばだというのに肌寒い日々が続いている。「半袖では寒いが、長袖では暑い——服装に難儀する」と、祖母が何度もこぼしていた。

 桜咲香は、家の外と家の中とを隔てるドアへと歩を進める。この時間、家には誰もいない。祖父母も両親も、自宅から少し離れた場所にある畑に出かけているからだ。桜咲香には、二歳年下の弟もおり、普段ならもう帰ってきている時間だが、今日はまだ帰ってきていない。毎週月曜日と水曜日と金曜日、隔週の土曜日は、弟が所属しているバスケットボールクラブの活動日——今日は金曜日だ、今頃体育館で汗を流しているに違いない。一人での留守番は寂しいが、その一人の時間も、それはそれでいいものだと、桜咲香は感じていた。なにより、日頃は小言を言う母の目を気にせず、弟とテレビ争いをすることもなく、すきなアニメを観られるのは嬉しかった。

 もうすぐドアにたどり着くその手前で、桜咲香は再び足を止めた。門を振り返り、そこに取り付けられた古びた郵便受けに目をやる。曇ったプラスチック製の窓のようなものが見え、その向こうに白っぽい何かが見えた。桜咲香は、郵便受けへと歩む方向を変える。その足取りがどこか軽く感じられて、桜咲香は少し恥ずかしくなった。

 郵便受けの扉を開ける。中に入っていた郵便物を取り出す。まず目に入ったのは、近所の不動産会社の社員が個人的につくっているらしいチラシだった。読んでみるとおもしろくて、桜咲香もよく目を通しているものだ。だが、お目当てのモノではない。桜咲香は、チラシを郵便物の一番後ろへと移動させた。次に目に入ったのは、これまた近所の持ち帰り専門ピザ屋のチラシだ。おいしそうなピザの写真を見ていると、自然とお腹が空いてくるような気がして、桜咲香はそのチラシも郵便物の一番後ろへと移動させた。そして、最後の郵便物にその目は吸い寄せられるように止まる。

 ほとんど白に近い淡い色が、桜咲香の目に飛び込んできた。


挿絵(By みてみん)


「サクラだ」

 それは、サクラの木の下から、空を見上げるようにサクラを撮った写真を使った、一枚の葉書だった。サクラの色、サクラの幹の色、サクラの花群れから僅かに覗く空の色——そのどれもが美しかった。そして、たった一年、その色をこの目で直に見ていないだけなのに、桜咲香はひどく懐かしい気持ちになった。

 葉書をひっくり返すと、これまた懐かしい文字が飛び込んできた。左半分に、この家の住所と桜咲香の名前、そして、送り手の住所と名前が記されている。右半分には、相手から桜咲香への、短いながらも心遣いの感じられる文章が綴られている。いかにも女の子らしい丸っこい文字は、相手の名前を確認せずとも、桜咲香には誰のものだかわかっていた。

「お蝶……」

 (なが)(かわ)(ちょう)()——桜咲香が前に通っていた学校で、仲の良かった友人の一人だ。写真を撮るのが趣味で、同じ教室で席を並べていた頃も、自身で撮った写真を使った葉書を、桜咲香をはじめクラスメイト達にプレゼントするような子だった。おそらくこのサクラの写真も蝶子自身が撮ったものだろう。

(相変わらず、すごくいい写真撮るなぁ)

 蝶子本人は「あくまで趣味の範囲」と言っていたが、桜咲香には充分に綺麗な写真に見えた。同時に、少し嫉妬にも似た気持ちも感じていた。

 沖縄県で見られる主なサクラであるカンヒザクラは、花の色は濃いピンク色、花びらが散るのではなく花ごと落ちる——そんなサクラだ。一月末に花が咲き、二月の中頃には若葉に包まれる。つまり、三月も終わりかける頃に沖縄県にやってきた桜咲香は、この春、一度もサクラを見ていないのである。

(色も、散り方も、向こうのサクラとは違うって聞いてたから、見たかったのになぁ)

 だからこそ、こうしてサクラの花を見られた蝶子が羨ましかった。もちろん、蝶子にはそんな気持ちなどないことはわかっていたのだが、一度生まれた小さな嫉妬心は、桜咲香の中で次第に膨らんでいくのだった。

 それを振り払うように、桜咲香は頭を振る。そして、踵を返し、家のドアへと向かう。

(お蝶に、返事を書かなきゃ)

 この島は、季節感に乏しい。かつて住んでいたあの地のような、季節の移ろいを感じられるモノが、あまりない。

 けれど、この島にも、美しい景色はある。蝶子のような綺麗な写真は、桜咲香には撮れないかもしれない。それでも、遠く離れてしまった友に、桜咲香は伝えたかった。

 この島にしかない、この島だけの美しさを、桜咲香の言葉と共に、海の向こうへ。

 『サクラの葉書』のご高覧、ありがとうございます。

 さて。ここから色々語りたいので、お付き合いのほどを。多分、長くなります。

 前書きでも書きましたが、この作品はコラボ企画です。名付けて、[空翔ぶ燕]企画。「空」=空乃様から一文字拝借、「翔ぶ」=お題から想像力膨らませて文章書くイメージ(「翔」という字には、「とぶ」の他「めぐる」や「さまよう」という意味もあるそうで、その意味も含めて「翔ぶ」を採用しました)、「燕」=葵枝燕から一文字——そんな由来で生まれた企画名です。

 そんな今回のお題は、「桜(二〇一七年四月十五日)」でした。本文中間の写真が、お題となったものです。

 さぁ……というわけで、ここからは登場人物について語ります。長くなりますので、ご了承ください。

 まずは、主役の桜咲香さん。小学六年生、もうすぐ十二歳になる女の子です。小学五年生まで東京都に住んでいましたが、年度が変わる前に、母の実家がある沖縄県へと引っ越してきました。引越しの理由は、「両親が母方の家業である農業を継ぐことになったため」です。最初は嫌々だったのですが、二週間ほど経った今では、「今の生活も悪くないかな」と思い始めています。ちなみに、名前がなんとなく示すとおり、四月生まれです。それから、作者が個人的につけた彼女のあだ名がありまして、こっそり愛を込めて「笹かまぼこ」と呼んでいます。単に名前をいじっただけですし、私は笹かまぼこを実際に見た記憶がございませんのですが……はい。あと、出しそびれたのですが、本名は、()(くら)()()()さんです。

 次に、蝶子さん。桜咲香さんがかつて通っていた学校の友人の一人です。桜咲香さんとは小学二年から同じクラスで、小学五年時の最後の一ヶ月間は隣の席でした。沖縄県に引っ越していった桜咲香さんと、葉書や手紙のやり取りをしています。写真を撮るのがすきで、自身の撮影した写真を使った葉書をつくっては、桜咲香におくっています。あだ名は、「お蝶」——それ以外にないかなと思いました。あとは……肩上ボブヘア、紫縁の眼鏡、意外と丸文字、筆記体が書ける、サインは名前を筆記体で書き最後に蝶々を描く——など、色々設定つくってました。ちなみに作者、「長川」なのか「中川」なのかわからなくなる——という事態に何度か陥りました。正しくは、「長川」さんです。

 前回が写真から発想を飛ばしすぎた感じでしたが、今回は写真をそのまま物語に取り入れてみました。空乃様にお題のお写真候補をいくつか提示していただいたときから、うっすらと「こういう写真が葉書としておくられてくる話とか、どうだろう」と思っていて、それをカタチにしてみました。それから、季節感を感じられるモノをおくられると、なんだか嬉しい気持ちになる気がしませんか?——というのを混ぜてみたりもしました。

 タイトル『サクラの葉書』ですが、蝶子さんから桜咲香さんにおくられた葉書そのものでもありますが、主役の名前に「桜」が入っているのも由来のひとつだったりします。

 ちなみに私、沖縄県で生まれ育ち今も住んでいるのですが、旅行以外で県外に出たことがないので、そういう意味では桜咲香さんの立場に立つのが難しかったです。上手く書けているとよいのですが。

 さて。これで語りたいことは語れたでしょうか。何か忘れてる気がしなくもないですが……思い出したら書きたいと思います。

 最後に。

 空乃 千尋様。今回も、ステキなお題をありがとうございます! 今回も、拙く至らない点もあったかと思いますが、色々相談に乗ってくださり、ありがとうございます! 次のコラボもできますように。それから、いつもありがとうございます!

 そして。ご高覧くださった読者の皆様にも最大級の感謝を。もしご感想などをTwitterにて報告される際は、ぜひ「#空翔ぶ燕」を付けて呟いてくださいませ。

 拙作を読んでくださり、ありがとうございました!

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