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異世界の何でも屋さん  作者: 三木羊示
第二章 初依頼編
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7 初依頼

「はぁ…」


「どうした、ため息なんて。レイらしくないな。」


 レイがため息をつくと、ユウが反応してくれる。微妙に失礼な気がするのは気にし過ぎなのだろうか。私だって悩みでため息をつくぐらいいくらでもあるのだが。


「どうしたなんてこともないでしょう?現状を考えれば、ため息をつく理由位すぐに分かりそうなものですけど?」


「ため息をつく理由か。一説には疲れやストレスを感じた際に、深く呼吸することにより酸素の供給量を増やしたり副交感神経の働きを高めるなどを目的としてため息を吐くと聞いたことがある。」


「…はぁ」


 誰もため息を吐く医学的な理由なんか聞いてないんですけど。もっとも、すでにこの男に察してもらうことを期待してはいないのだが。


「依頼のことよ。折角リーリア様のおかげでこうして探偵事務所を開業したんだから、依頼の一つでもないと張り合いがないわ。」


 予想していたことだが、探偵事務所を開業して既に1週間が経過しているが、依頼は未だ一つとしてなかった。


「まあ、当然だろうな。少なくともこの王都には、探偵に該当する職業が存在しない。だから、探偵を開業したところで、利用方法が人々に周知されなければ、探偵に依頼をするという発想そのものに至らないだろう。」


「やっぱり私たちでも宣伝活動をするべきかしら。ビラを撒くとか、貼り紙するとか。」


「まあ、効果がないとは言わないが…。この世界の庶民の識字率が高くない可能性があるからな。それに、実際のところ探偵事務所自体の周知自体は現状で十分だし、実際に存在を知っている人は多いだろう。なにせ王家公認らしいからな。」


 ユウが言っているのは店先に掲げられた看板のことだ。


 基本的に事務所の設計に関してはほぼリーリアに任せて進めていた。事務所の立地は良く、建物は二階建てだが大きくはなく、外装や内装は派手ではないものの、品がよくどことなく格式を感じさせるつくりとなっている。そして、店先の扉の上には「王家公認 王都探偵事務所」の看板があった。リーリアが張り切って王家公認などという枕詞をつけたのだが、実際には敷居を高くしているのではないかという懸念がある。そこそこ、人通りの多い通りに面しているので、看板の字が読めなくとも気になっている人は多いのではないだろうか。


「問題は存在を知ってもらった次の段階、利用のハードルだ。実際どういった価格でどのようなサービスを提供するかは依頼を出してもらって利用してもらわないと理解してもらえないだろうからな。そして、探偵を利用したことがある人間はここでは0人だ。未知のことをするのはそれだけで敷居が高い。」


「うーん、じゃあ、ビラを配りながらお店の概要を説明するとか、は効率悪そうだし…まあ利用してみた感じとかは口コミとかで広げてもらうのが一番だと思うけど、利用者がいないんじゃ…」


 結局、好奇心に溢れた依頼人が来てくれるのを待つしかないのだろうか。まあ、まだ、リーリアから援助してもらった資金には余裕があるので生活にはしばらくは困らないだろう。まだ、焦るときではない。果報は寝て待てというではないか。と現状維持の決心をしたところで改めて部屋の中の様子が目に入る。


「あれ、この部屋こんなに本多かったっけ?」


 いま、レイたちは応接室兼仕事部屋として使用している二階にいる。通りに面している表の玄関扉を開けるとすぐ階段になっていて、二階の仕事部屋に直通で来れるようになっている。一階は生活スペースになっていて、ユウとレイのそれぞれの部屋とキッチンなどの共有スペースがある。一階は表通りの扉のほかにある裏口から入るようになっている。


 そして、事務所には本棚があるのだが、一部が溢れて、床の上にも積み上げられているものがある。


「3日前にリーリア様がいらっしゃっただろう。そのときに、更に必要な書物をリストアップしたものを渡して、手配してもらうように頼んだんだ。」


 あまりの厚かましさにあきれてしまった。そもそもユウは、探偵事務所を開業する際に、探偵はあらゆる悩みを解決するために万物に通じる必要があるだとか、真の探偵はその知識と思考をもってして椅子の上にいながらにして事件を解決してしまうものだとか言って、リーリア様をたきつけて本を買いまくってもらったのだ。そのときのリーリア様は目をキラキラさせていたので、レイは何も言えなかった。


 そのうえ、更に追加を要求するなど、面の皮が厚いにもほどがある。


「まったく...」


レイは呆れながら持ってきたパンを出す。レイは軽食やつまめるようなものを事務所に置いておくようにしていた。


「それは?」


「最近売れてるんだって。」


 レイが持ってきたのは、王都で一般的な白い生地のパンでは無く、濃いブラウンの生地のパンだった。


「ちょっと酸味があって独特だけど、麦の味が強いんだって。普通のパンよりもずっしりしてて、栄養価も高いみたいよ。それでいて、値段も安いから、庶民の間で最近流行ってるみたい。」


 そう言いながら、レイはスライスしたパンを皿の上に置いていく。付け合わせは市場で買ったマーマレードだ。


「ジャムなんかは結構値段するんじゃないか?」


 ユウがお金の心配をしてくる。


 砂糖は貴重で手に入らない、というわけではないが、やはり値段は張る。この地方は温帯から亜寒帯の気候なので、砂糖は温暖な地方からの輸入に頼っており、その分高級ではある。


 お金に関しては探偵業の収入が現状ゼロなので、リーリアから最初に支給されたお金を切り崩して使うことにしている。生活費については差し当たり各人に金貨5枚支給している。


「心配しなくても大丈夫よ。私の生活費から出してるし。」


「ふむ。それなら遠慮無くいただこう。」


 そう言ってユウはパンを一切れ手にする。


 私の生活費からでてるから遠慮無くいただくという思考が分からない。むしろ遠慮するところではないのか。


 そう思いながらソファーに腰を下ろす。お客さんが来ないからと言って、事務所を離れるわけにはいかないから、ソファーに座って本を読んだりしてひがな一日過ごすのがここ最近の習慣になっていた。


(このままじゃまずいわ...)


 堕落しきった生活を続けることに危機感を覚えていると、事務所の扉が不意にキィと開かれる。


「あの〜...」


 いかにも恐る恐るといった感じで扉を開けたのは、肩のあたりで栗毛の髪を切り揃えた10歳前後の幼女だった。


「あの、なんでも悩みを解決してくれるってほんとですか?」


 幼女が不安そうに見上げてくる。この際子供のひやかしでもなんでも良い。レイは依頼に飢えていた。


「そうよ!正確には悩みを解決するためにお手伝いするって感じかな。とりあえず話を聴かせてもらえるかな?さあ!座って座って!」


 そういって幼女をグイグイとソファーの方へ押しやる。若干レイのハイテンションにひいている気がしないでもないが、歓迎されているのがわかったのか、不安が若干和らいだようである。


 幼女がソファーに座るとユウが口を開く。


「僕らは探偵といって、人のあらゆる悩みを解決するためのお手伝いをする、言ってみれば、何でも屋さんみたいなものだ。実際にどのようにお手伝いさせてもらうか、報酬をどれくらいもらうかは、話を聞いてから決めるんだけど...」


 そこで、ユウが口籠る。要するに子供に報酬が払えるのかと心配しているのだ。


 すると、幼女の方も察したようだ。ポケットからジャラジャラと小銭がでてくる。


「あの、これで私の全財産なんです。これで私のお友達を助けて!」


 コツコツ貯め続けてきた小銭なのだろう。銅貨や鉄貨ばかりだが、子供には大金だろう。その全財産を投げ打って、勇気を出してこんな得体の知れない事務所に単身で足を踏み入れてきたことを思うと、その健気さに思わず抱きしめたくなってしまう。


(抱きしめるのは我慢よ...。仮にも今はお客さんなんだから)


 レイが心の中で葛藤しているのをよそにユウが話を進める。


「...良いだろう。取りあえず、君の悩みの内容を聞かせてもらえないかな。」


「私のお友達のテレサちゃんに...テレサちゃんにとりついた悪魔を払って欲しいの!」


 思わずユウと顔を見合わせてしまった。


 えーと、悪魔?


 異世界の子供の悩みハードル高すぎないか。


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